※本稿は、マキシム・サムソン著『世界は「見えない境界線」でできている』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
距離は近いのに大きく異なる「バリ島」と「ロンボク島」
――アルフレッド・ラッセル・ウォレス
インドネシアのバリ島とロンボク島の距離は、一番狭いところで35キロほどしかない。ところが、この西から東への短い旅が大陸をまたぐ旅行に思えることがある。
バリは美しいビーチや水田、火山を訪れる観光客で賑わっているのに対し、ロンボクはもっと静かで落ち着いており、開発もされていない。
ロンボクまで来ると、ヒンドゥー教に代わってイスラム教が盛んになり、寺院の代わりにモスクが、子豚の丸焼きの代わりに牛肉の串サテ焼きが多くなる。
特に鋭敏な旅行者は、バリ語とササク語の違いに気がつくかもしれない。新婚旅行客はバリを訪れ、冒険旅行を好む者はロンボクを選ぶことが多い。海はまったく同じに見えるだろうが、ほかの多くの部分で際立った対比が見られる。
「歴史上最も無視された科学者」が出した答え
両島の野生生物を考慮に入れると、対比はさらに明確になる。バリ島の動物相はマングースやキツツキ、過去にはトラも生息した“アジア系”である。一方のロンボク島はヤマアラシ、タイハクオウム、トサカハゲミツスイなど“オーストラリア系”だ。
ホップ、ステップ、ジャンプで飛び越えられそうなロンボク海峡をはさんで、どうしてこれほど明らかな違いが生じるのだろう? こうした相違から、もっと広い世界について何を学べるだろう? ありがたいことに、歴史上最も無視された科学者が、それらの疑問に答えを与えてくれた。
街で通行人に、進化を発見したのは誰かと訊けば、まず間違いなくチャールズ・ダーウィンという答えが返ってくるだろう。
そういう人々は、ダーウィンがおおむねガラパゴス島での体験に基づいて理論を展開していたときに、そこから1万6000キロ離れた場所で、もっと若くて無名の自然学者が、ほぼ同様の結論を導き出していたことを知ったら驚くにちがいない。