スポーツ仲裁裁判所が「トランス選手の訴え」を棄却
男性から女性へ性別を変えたスポーツ選手は、どの「カテゴリー」で出場すべきなのか。
6月12日、スポーツ仲裁裁判所(Court of Arbitration for Sport、CAS)は、競泳で男性から女性へ性別変更したリア・トーマス選手(米国)による訴えを棄却した。トーマス選手が求めていたのは、世界水泳連盟による、トランスジェンダーの選手を女子のカテゴリーから実質的に締め出す指針の撤回だった。
世界水連は、2022年の夏、男性として思春期を経験した選手が女子部門に出場することを禁止し、2023年10月にベルリンで開いたW杯ではトランスジェンダー選手の出場を想定した「オープンカテゴリー」を新設している。出生時と、その後に自認する性別が異なった場合に、どう対処すれば良いのか。
夏のパリ五輪を控え、世界中で議論が続いている。
「トランス女性」の女子競技への出場はアンフェア
世界水連が「オープンカテゴリー」を設けた背景には、トーマス選手の活躍がある。2022年3月、トーマス選手は、NCAA(National College Athletic Association、全米大学体育協会)の大会で、トランスジェンダーとして初めて優勝したからである。男の体を持っている選手が女の枠組みで競争すると、水泳というスポーツの平等を損ねるのか。あるいは逆に、男の枠組みに入れてしまうと、トランスジェンダーへの差別なのか。苦心の末に生み出したのが「オープンカテゴリー」だった。
トランスジェンダーについて論じた本を見てみよう。性社会・文化史研究者の三橋順子氏は、著書『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』(辰巳出版)のなかで、「Trans-womanの人が競技スポーツで、男性としてではなく、女性として出場することについてどう思いますか?」との質問に対して、「女子競技における公平性の担保は重要と考えます」とし、各競技団体のルールに従うことが参加の条件であると答えている。
その上で、「筋肉量は女性ホルモンの継続投与で低下しても、男性ホルモンの環境下で形成された体格・骨格は、女性に比べて優位性が残ります。私はそれを経験的に知っているので、Trans-womanの女子競技への出場はやはりアンフェアだと思います」(同書、220ページ)と述べている。