トランスジェンダーをめぐる言論の不自由さ

日本でもトランスジェンダーをめぐる言論は増えているが、その多くは自由度が欠けているように思える。昨年末に、KADOKAWAが翻訳出版を決めていた本を、急遽、中止した経緯は、記憶に新しい。その後、4月に産経新聞出版から『トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇』として出版されたが、賛否が分かれている。

また、シスジェンダー女性(女性として生まれ、女性を生きる女性)がTrans-womanに対して違和感を示すと、TERF(Trans-Exclusionary Radical Feminist)、つまり、トランスを排除するラジカルフェミニストと呼ばれる場面が散見される。これまでも、そして今もなお、トランスジェンダーに対する差別や排除が苛烈だからこそ、仮に行き過ぎと思われたとしても主張しなければならない、という理路なのかもしれない。

背景には、Trans-womanが女性用のトイレや更衣室に「侵入」してくるのではないか、との恐怖をあおる風潮がある。日本でも「LGBT理解増進法」の成立によって、そうした「侵入」を防げないのではないか、といった言葉がネット上で飛び交っている。

英国では「ジェンダー・ニュートラル」見直しへ

たしかに同法の提出者だった自由民主党の新藤義孝氏は、「法は理念法であり、権利や義務を生み出すものではない」と強調しているものの、不安を覚える人がいても無理はない。

実際、英国では、2010年ごろからトイレの男女共用化(ジェンダー・ニュートラル・トイレ)が進んだものの、2024年5月6日、ケミ・バデノック女性・平等担当相が、新たな法案を発表している。在英ジャーナリストの小林恭子氏によれば、それは、今後、イングランドで新規のレストランなどを新規に建築する際は、男女別のトイレ設置を義務化するものだという。

ジェンダー・ニュートラルなトイレ施設は「男女両方にとってプライバシーと尊厳を否定する」ものであり、その「拡大を終わらせる」と同相は説明したと、小林氏は説明している。このように、「先進国」とされる英国では、軌道修正の動きが出ている。

問題は、トランスジェンダー全体をまとめて議論しようとする(乱暴な)姿勢ではないか。日本は、ジェンダー平等、とりわけ、トランスジェンダーへの対応が遅れている、とされてきたものの、むしろ日本の行政機関がルールに基づき粛々と対応してきたことは評価されるべきではないか。

男性用と女性用に区切られて設置されたトイレの入り口
写真=iStock.com/niuniu
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