気持ちを表す言葉は意外と使われていない

聞き方②――気持ち

先ほど、「想像で、人の気持ちを完璧に理解することはできない」とお伝えしましたが、それにはもうひとつ別の理由もあります。

私たちの会話のほとんどは、「事柄」を伝えることで成り立っています。

意外かもしれませんが、気持ちを表す言葉は使われないまま、コミュニケーションを取っていることが多いのです。

例えば、職場で次のような会話があったとします。

【A】「今日、上司に怒られちゃった」
【B】「そっか……。飲みにでも行く? 付き合うよ」

さて、この会話に気持ちを表す言葉はどれだけ入っているでしょうか?

実は、ひとつも入っていないのです。

Aさんは「怒られた」とは言っています。しかしその結果、落ち込んでいるのか、悔しかったのか、反省しているのか、悲しいのか……気持ちは何も言っていません。

「空気を読む」という言葉があるように、私たちは気持ちを想像して会話をしています。

Bさんは、Aさんがどんな気持ちかはわかっていません。ただ、その様子からして、何かしらネガティブな感情を感じ取り、「きっと話を聞いてもらいたいのだろう」と想像して、飲みに行こうかと誘っているのです。

会話に気持ちを表す言葉が入っていないとき、気持ちは聞いてもいいのです。

先ほどの会話例であれば、もし相手の気持ちが想像できたら、

「そっか、怒られちゃったんだ……。それは落ち込むよね?」

と、最後を疑問形にして相手の気持ちを聞いてみればいいのです。

相手は「落ち込んだよ……」と答えるかもしれないし、「落ち込んだのもあるけど、情けなくって……」と気持ちを伝えてくれるかもしれません。

相手の気持ちが想像できるときはともかく、それが想像できないときはどうしたらいいのかと、疑問に思った方もいらっしゃることでしょう。

相手の気持ちがわからないときは、素直に聞いてみるのが一番です。

相手の気持ちを聞くことに、ためらいを覚えるかもしれません。しかし、

「そっか、怒られちゃったんだ……。そのとき、どう思った?」

と、素直に聞いてみると、相手も案外、嫌な気持ちになることなく素直に気持ちを話してくれるものです。

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写真=iStock.com/SewcreamStudio
※写真はイメージです

愛しているからこそ「優先する」「後回しにする」ですれ違う

聞き方③――基準

最後に注目するのは「基準」です。

人にはそれぞれの価値観があり、基準があります。この基準が人それぞれで違うため、同じ出来事に対する考え方や湧いてくる感情が異なってきます。

実はこの基準は、ありとあらゆることに関わってきています。

例えば、「がんばる」の基準を考えてみましょう。

何時間仕事をしたら、がんばったと言えますか?

8時間でがんばったという基準の人は、6時間しか仕事をしていない人に対して、「そんなの、がんばったうちに入らない」と思うかもしれません。

6時間でがんばったという基準の人が、8時間仕事をしている人を見ると、「そんなの、やりすぎだ」と思うかもしれません。

ある会社で、定時退社の時刻が夕方5時だとします。「5時までは就業時間」という基準を持っていれば、帰り支度は5時を過ぎてから、という考え方になります。

だからこそ5時5分前から机の上を片づけはじめ、5時ぴったりにタイムカードを押す人を、「こんなのおかしい。理解できない」となるのです。

パートナーシップでよくあるのが、「愛され基準」です。

相手のために、自分の時間や労力を使うことが愛情表現だと思っている人は、「相手が自分のためにどれだけ時間を使ってくれているか」を基準に愛されているかどうかを判断します。

神谷海帆『感情のメッセージに気づくと、人間関係はうまくいく』(三笠書房)
神谷海帆『感情のメッセージに気づくと、人間関係はうまくいく』(三笠書房)

すると「最近なかなか会えない。もしかして私は愛されていないのかも?」と不安になるのです。

一方で、相手を信頼することが愛情表現だと思っている人もいます。愛しているからこそ、信頼しているからこそ、相手もきっと理解してくれる。すると、大事な人との時間を後回しにすることもあるでしょう。

愛しているからこそ優先する。愛しているからこそ後回しにする。

この真逆の基準が原因で、ケンカが起きるのです。しかし、お互いの基準が違うことがわかれば、本当はふたりの間に愛はあったんだという、大事なことに気づくことができるでしょう。