中流を襲う貧困とインフレが重なった“スクリューフレーション”とは

熱中症が命にかかわっても、電気代を少しでも節約したいという切実な気持ちは、年金生活者など、最近の物価高の影響をまともに受けている人たちに少なくない。

日本にかつて「1億総中流意識」があったが、いまや「中産階級の貧困化」が指摘されている。日本で中産階級が崩壊しつつあることが、エアコン使用のつつましやかな節約などに表れているのではないか。

中産階級の明確な定義はないが、日本の世帯所得の「中央値」でみることがある。厚生労働省が公表する国民生活基礎調査の所得金額階級別の中央値は、この20、30年で大きく落ち込んでいる。1990年代半ばには550万円前後だったが、2000年代初頭に500万円を割り込み、2010年代には400万円台の前半で推移し、直近の2022年は423万円。この30年近くで、世帯所得の中央値は百数十万円も落ち込んでいる。

そこに、最近の物価高が追い打ちをかけている。賃上げの動きはあるが、物価高に追いついておらず、中小企業などは大手企業ほどの賃上げになっていないほか、年金生活者への物価高対策は十分といえない。

第一生命経済研究所・首席エコノミストの永濱利廣さんは、「インフレで深刻化する生活格差」というレポートの中でウクライナ戦争以降、日本国内における中産階級の貧困化とインフレが重なった「スクリューフレーション」が深刻化していると指摘する。

強い日差しに参っている人
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生活必需品の価格は急上昇している。生活必需品は低所得であるほど消費支出に占める比重が高く、高所得であるほど比重が低くなる。財務省の家計調査によれば、消費支出に占める生活必需品の割合は、年収1500万円以上の世帯で43%程度に対し、同200万円未満の世帯で58%程度になっている。生活必需品の価格上昇で、所得が伸び悩む低所得層を中心に実質購買力が低下し、富裕層との実質所得格差が一段と拡大していく。

こうした背景に、永濱さんは東西冷戦の終焉による新興国の台頭があるとみている。「新興国の安い労働力を求めて世界のグローバル企業が進出し、先進国の就業機会が新興国に出ていきました。これによって新興国が台頭して生活水準が向上し、世界的な生活必需品の需要が増えて、食料やエネルギーの価格がグローバルで上がりました」と解説する。

日本の個人消費は、物価高のなかで節約志向もあり、低迷が続いている。賃上げが物価上昇に追いつかず、実質賃金がマイナスで、多くの人たちが節約生活を余儀なくされているためだ。個人消費は国内総生産(GDP)の約6割を占めており、個人消費が回復しないと、日本経済の本格的な回復は難しい。