日本の少子化は60年前から“予言”されていた
「少子化の進行は危機的な状況だ。若年人口が急激に減少する30年代に入るまでの6年間がラストチャンスだ」
1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標となる合計特殊出生率が「1.20」と過去最低になったことを受けて、武見敬三厚労大臣はそんな風に危機感をあらわにした。
ただ、お言葉を返すようだが、残念ながらこの件の「ラストチャンス」などとっくの昔に終わってしまっている。
実は日本の出生率が今のような状況になることは、半世紀前からわかりきっていた。1964年、厚生省人口問題研究所は2015年の日本の人口比率について「幼少一七%、成人六三%となり、老齢人口が二〇%を占める」(読売新聞 1967年4月27日)と「50年後の現実」をほぼ正確に予測をしている。
これを深刻に受け止めた当時の厚生大臣が審議会や専門家に意見を求めると、「静かな有事」「この危機を食い止めるのは今しかない」という声がたくさん返ってきた。そこで予算が組まれ「人口問題」の対策がスタートする。
それがさらに加速したのが1990年、合計特殊出生率が過去最低となった「1.57ショック」だ。これを受けて2003年には少子化社会対策基本法が成立、現金給付や現物給付が拡充して年を追うごとに「子ども手当」や「子育て安心プラン」などさまざま「少子化対策」が充実していった……という流れだ。
政府は少子化対策の失敗を認めるべき
しかし、1964年から右肩下がりで子どもは減り続けている。政府が結婚や出産を呼びかければ呼びかけるほど、「子どもを産み育てることは罰ゲーム」というムードも強まっている。つまり、われわれは半世紀以上も「ラストチャンス」をものにすることができなかった。その体たらくの結果が、合計特殊出生率「1.20」である。
武見氏が厚労大臣として今やるべきは「あと6年が正念場だ」などと「負け戦の士気を高める」ことではなく、「作戦失敗」を素直に認めることだ。つまり、これまで60年間にわたってやってきた少子化対策が「まったく効果なかった」という厳しい現実を真摯に受け止めて、本当に効果のある少子化対策へと方針転換するのだ。
「それができないから問題なのだ」という声が聞こえてきそうだが、実はこれは「やる気」さえあれば簡単だ。この60年、政府がやってきた少子化対策がゼロ効果なのだから、その「逆」へと180度方向転換をすればいいだけだ。