「子育ては過酷」というネガティブキャンペーン

これも「人は子どもを産み育てるのが当たり前」という価値観に基づいているのは明白だが、タチが悪いのはこの言葉が逆説的に「子育ては公的支援が必要なほど過酷でつらいものだ」というネガティブキャンペーンになっていることだ。

「子どもが欲しくない」という考えの人たちはこの言葉を聞くたびに「そんなに辛いことは絶対にごめんだ」と結婚や出産を敬遠していく。また、実際に子育てに日々追われている夫婦も「ああ、私たちは国から支援をされるような大変なことをやらされているのか」とゲンナリをするので、2人目や3人目をつくることを差し控える。

この30年、政府が「子育て支援」に力を入れれば入れるほど、少子化が加速していったのは、国家がこの言葉で「子どもを産み育てることは、個人の力だけではおこなえないほど無理ゲーですよ」と若い人たちを脅し続けた結果でもあるのだ。

ベビーカーを押している女性が木陰で一人、こらえている
写真=iStock.com/kieferpix
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「バラマキ」では少子化は食い止められない

さて、それではこのような悪循環をどう断ち切っていくのかというと、先ほど申し上げたように「子育て支援」から「おひとりさま支援」への方針転換であり、「バラマキ」の見直しだ。

すでに多くの専門家が指摘しているが今、日本がやっている「子育て支援」という名目のバラマキは少子化対策としての効果が乏しい。これは日本の直近30年を検証すれば明白だが、他の先進国でも言われ始めている。

例えば、The NewYork Timesは「Can China Reverse Its Population Decline? Just Ask Sweden」(2023年2月9日)という記事で、子育て支援が充実しているフィンランドやフランスでも出生率が過去最低水準となっている事実から、「バラマキ」では少子化は食い止めることができないと指摘している。

これは冷静に考えて見れば当然だ。補助金がもらえるとか行政のサポートが充実してますというニンジンは、子どもをもつべきか否かと検討しているカップルの背中を押すことができる。しかし、「子どもを欲しくない」というシングル志向の人たちにはそれほど響かない。

先ほども申し上げたように、「子どもをつくらない人」が都市生活者の中で一定数あらわれるのは自然なことだ。カネがないとか行政のサポートがないという理由でなっているわけではなく、その人なりに自分が置かれた状況の中でベストだと判断した「生き方」である。