G7のなかで日本の国民負担率は断トツの上昇幅
日本で一般人の生活が、いかに厳しくなっているのかを見る指標はほかにもある。永濱さんは次のように話す。
「過去20年間の国民負担率の推移をみると、日本は先進諸国G7のなかで断トツの上昇幅となり、8%ポイント近く上がっています。2位のドイツでも3%ポイントくらいの上昇にとどまっています。これでは日本の景気が良くなるはずがありません」
国民負担率とは、租税負担と社会保障負担を合わせた義務的な公的負担の国民所得に対する比率のこと。財務省によると、昨年度は実績見込みで46.1%、今年度の見通しで45.1%となっている。これに財政赤字を加えた潜在的な国民負担率は昨年度が54.6%、今年度見通しは50.9%という。
日本の中産階級や低所得者層は、この30年くらいの経済の低迷に、最近の物価高に大きな打撃を受けている。消費生活は節約志向を強めるばかりだ。「貧困化」の進行を止めようがない。
永濱さんはレポートで、「地域格差も広げる可能性」を指摘している。地方では自動車の移動が多く、家計支出に占めるガソリン代は都市部に比べて高い。田舎へ行くと、冬場は暖房のために多くの燃料が必要で、灯油代の高騰は打撃となる。これが地域格差を広げる可能性につながるとみている。
中産階級が貧困化する日本は、これからどうなるのだろうか。永濱さんは、格差の拡大で犯罪の増加や優秀な人材の海外流出の可能性があるとみている。
実際、手っ取り早くお金を稼ごうと、凶悪で悪質な犯罪はすでに日常的に起きている。日々のニュースでは、お金を盗むため、人を簡単に殺している事件や、銅電線や水道蛇口などの金属類の窃盗事件も絶えない。
これまでは優秀な学生が国内の有名大学に進学することが多かったが、最近は米国などへ留学する人も少なくない。優秀な頭脳を代表する大学教授職の年間給与は、日米で2倍以上も格差がある。優秀な頭脳の海外流出は避けられない。
たとえば、東京大学が公表する2021年度の教授1200人の平均年間給与額は約1192万円で、その分布は約905万円~約1890万円と幅がある。一方、米国大学教授協会による2021~22学年度の大学教員給与調査で、教授の平均年収は14万3823ドルと、1ドル=160円で約2300万円。私立博士課程大学教授の平均給与で最高はコロンビア大学の28万800ドル(同約4500万円)で、スタンフォード大学の26万9100ドル(同約4300万円)、プリンストン大学の26万6100ドル(同約4250万円)などとなっている。
このままでは、日本の経済はじり貧になり、一般人の貧困化が進んでいく。永濱さんは「日本のデフレマインドを払拭するためには、それなりの政策を打つ必要があります」と話す。日本では最近まで、物価が下落するデフレ経済が続いてきたため、日本人は安いものを求める生活に慣れてきた。そこで、「お金を使った人が得をする必要があります」とみている。
給付金のばらまきだと使わないで貯金する人もいるため、とにかく支出してもらうことが大切になる。たとえば、韓国はキャッシュレス普及率が九十数%に達しており、クレジットカード決済は一定限度で所得控除を受けられる税制上の優遇措置を導入した。こうした支出を優遇する施策で、個人消費を促し、日本経済の回復を図る必要があるのかもしれない。
もちろん賃上げも大事だが、企業などの事業者は稼いだ以上に賃金を上げることが難しい。経済が好循環するためにも、消費を促す必要がある。何も手を打たないと、日本の貧困化が続いていく。