「極右の台頭」に苦悩する欧州各国の政権

会派別に見ていくと、現フランス大統領であるマクロン氏が率いるリニュー・ヨーロッパ(RE・中道リベラル)と欧州緑の党・欧州自由連盟(Greens/EFA・中道左派・環境)が大幅に議席数を減らした。一方で欧州保守改革(ECR・保守)とアイデンティティーと民主主義(ID・極右)が議席数を伸ばしている。

フランスの極右政党である国民連合の党首、ジョルダン・バルデラ氏(28歳)
フランスの極右政党である国民連合の党首、ジョルダン・バルデラ氏(28歳)(写真=European Parliament/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

また議席数を増やした「無所属」の中には自国優先主義と言われる「ドイツのための選択肢(ドイツ)」や「フィデス(オルバン首相が率いるハンガリーの政権与党)」などが含まれる。

リベラルが票を落とし、保守や極右が票を伸ばした背景には、生活苦などによる不満の高まりがある。欧州各国の市民が体感する「豊かさ」は、コロナ禍前を下回っている。その原因が、EUが旗を振る「国際協調的な政策」にあると考える人が増えているのだ。

国際協調的な政策とは、第一に移民である。各国の政権が寛容に対応してきた移民労働者の増加は、賃上げ圧力を緩和し、不法移民の増加なども招いた。賃金が上がらず、治安が悪化するという各国で起きている問題の原因を、移民の流入に求める風潮が形成された。

市民の不満が拡大している理由

第二に気候変動対策が挙げられる。ドイツでは暖房設備に再生可能エネルギー利用が義務づけられるなど、経済的負担の重さが「気候変動対策疲れ」を引き起こしている。欧州投資銀行(EIB)の調査によれば、2019年の選挙時にEU市民は「気候変動」を最大の困難として挙げていたが、2023年には「生活費上昇」を挙げる回答者が急増したという。

そして第三に、ウクライナ支援である。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、欧州各国はロシアへの経済制裁を発動した。その結果、ロシアからの化石燃料の輸入量が激減し、電気料金の値上がりやガソリン価格の高騰などが市民生活に大きな影響を与えている。また2022年6月以降、EUはウクライナからの輸入品への関税を停止したため、EU各国ではウクライナ産の安価な農作物の輸入が急増した。これにより各国の農家は、政府に自国優先の対応を求めて抗議活動を実施するなど、不満が拡大している。

こうした中、フランスでは極右政党「国民連合(RN)」の欧州議会選挙での躍進を受けて、マクロン大統領が国民議会(下院)の解散を宣言し、6月30日に選挙が行われた。マクロン大統領は極右にアレルギーがある市民への訴えを強めて、自らが率いる政党「ルネサンス(再生・中道リベラル)」の復権を狙ったが、結果は国民連合(RN・極右)が得票率1位となった。7月7日に行われる決選投票で最終的な議席数が確定するが、マクロン大統領にとっては厳しい結果といえる。