存在感を増すイタリアのメローニ首相
そんな欧州において脚光を浴びているのが、イタリア初の女性首相となったジョルジャ・メローニ氏だ。
メローニ首相はイタリアの首都ローマ出身の47歳で、2012年に右派政党「イタリアの同胞」を結党した。同党は2022年の総選挙で第1党に躍進し、首相に就任した。独裁者ムッソリーニが結成した「ファシスト党」の流れをくむ政党「イタリア社会運動」の青年組織に所属していた過去から、ファシズムに傾倒しているのではないかといわれたが、実際には欧州人民党(EPP)などのEUの中心勢力との緊密な協力関係を築き、自身が所属する欧州保守改革(ECR)などの保守派や極右勢力との橋渡し役を務めてきた。
EUのフォン・デア・ライエン委員長は、イタリアでのメローニ氏の盟友である極右政党「同盟」のサルビーニ党首やフランスの極右政党「国民連合(RN)」の実質的リーダーであるマリーヌ・ルペン氏ら、極右勢力との連携は否定している。しかしメローニ氏に対しては「明らかに親欧州派だ」として、協力することに懸念はないとしている。
欧州議会選挙前には、フォン・デア・ライエン委員長の2期目を狙う主要政党と、勢力逆転を狙うアイデンティティーと民主主義(ID)のマリーヌ・ルペン氏ら極右との間で、欧州保守改革(ECR)のメローニ氏がキャスティングボートを握るといわれていた。双方から熱烈なラブコールがあったとされる。メローニ氏自身はマリーヌ・ルペン氏らの極右勢力と同一視されることを嫌っており、今後はフォン・デア・ライエン委員長ら主要政党と接近してEU内で発言権を増していこうと考えているのではないか。
「6人のレームダックとジョルジャ・メローニ」
6月13日~14日にイタリア・プーリア州で開催されたG7サミットの際には、米メディアのPOLITICOに「6人のレームダックとジョルジャ・メローニ」という記事が掲載された。記事によれば、「今回のG7は史上最も弱い指導者の集まり」であり、メローニ氏以外は「レームダック(死に体)」だというのだ。
フランスのマクロン大統領とイギリスのスナク首相は、低迷する支持率を回復させる最後の手段として議会を解散し、急遽、選挙戦を繰り広げている。ドイツのショルツ首相は、欧州議会選挙で極右に大敗して屈辱を味わい、間もなく失脚する可能性がある。カナダのトルドー首相は、「クレイジーな」仕事を辞めたいと公言している。日本の岸田首相は、今年後半の自民党総裁選を前に、支持率の低迷に耐えている。そしてアメリカのバイデン大統領は、次男のハンター・バイデン氏が銃を不法に購入した罪などで有罪判決を受け、大統領選への影響が注目されている。
つまりイタリアのメローニ首相を除けば、G7サミットの首脳陣は皆「レームダック化している」というのが記事の要旨だ。
メローニ首相は国内では右派連立政権ながら、EUやNATOとは協調方針をとるなど現実路線を歩んでいる。欧州議会選挙では、自身の率いる「イタリアの同胞」が29%を得票して首位に立った。G7の他6カ国の首脳と違って国民から支持され、政権基盤を盤石なものとしている。