ビジネスにとって「持続可能性(サステナビリティ)」はどれだけ重要なのか。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「新しいApple Watchが『カーボンニュートラル』を謳っているように、グローバル企業ではサステナビリティに取り組むことが当たり前になっている。すでに世界の潮流となってしまっているので、日本企業は出遅れないほうがいい」という――。
世界アースデイにアップルストアのロゴが緑の葉でライトアップされた。2021年4月16日、中国・上海。
写真提供=CFOTO/共同通信イメージズ
世界アースデイにアップルストアのロゴが緑の葉でライトアップされた。2021年4月16日、中国・上海。

アップル「2030年までに全製品をカーボンニュートラルにする」

世界中のユーザーが注目するアップルの新製品発表会「Apple Event」。昨年9月のApple Eventでは、機能やデザイン、価格とは別の視点から目を引いた製品があった。アップル初の“カーボンニュートラルな製品”として発表されたアップルウォッチ・シリーズ9(第9世代)だ。

Apple Watchシリーズ9は、Apple初のカーボンニュートラルな製品
アップル、コーポレートサイトより

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという意味だ。

製品にかかわる排出源は、主に素材・電力・輸送の3つがある。このアップルウォッチでは、製造に100%クリーン電力を使用し、排出量の78%を削減。削減しきれない部分は、環境保護プロジェクトに投資することなどで相殺する。この計算には、販売後にユーザーが充電する総電力量も含まれている。

カーボンニュートラルは、自社の活動だけで達成するのは難しい。アップルはサプライヤーに協力を求め、関連業務には再生可能エネルギーを使用してもらった。

アップルは2020年に発表した「Apple2030」で、2030年までに全製品をカーボンニュートラルにすると宣言している。製造や輸送にかかわるグローバルなサプライチェーン全体、製品のライフサイクル全体を含めてカーボンニュートラルにするというもので、「Apple2030」の第一歩となったのがアップルウォッチ・シリーズ9ということだ。

iPhoneは「クリーンなエネルギーを利用できる時間帯」を表示

昨年9月のApple Eventでは、環境・政策・社会イニシアティブ担当のリサ・ジャクソン氏が次のように語った。

「アップルは実績のある長年の取り組みにより、気候変動との闘いにおける推進的な役割を果たしてきた。再生可能エネルギー、低炭素設計への重点的な取り組みで、すでに業界をリードする排出量削減を実現している。そして、私たちは手を緩めない」

彼女がいう“気候変動との闘い”は大げさでなく、アップルの危機感と使命感が相当に強いことを示している。

アップルはオフィス、店舗、社員の出張などに関してカーボンニュートラルを達成したと2020年に発表している。具体的には、オフィスで消費電力の80%を削減し、再生エネルギーのプロジェクトを進め、他社と温室効果ガスの排出権を取り引きするカーボンクレジットも積極的に購入している。

2021年の株主総会では、全製品をリサイクル材だけで生産する構想を発表した。実際にiPhoneでは、リサイクル素材の使用が継続的に拡大している。

アプリの開発にも“気候変動との闘い”は表れている。昨年iPhoneやiPadのホームアプリに追加した「グリッド予報」だ。よりクリーンなエネルギーを利用できる時間帯が表示され、ユーザーの電力使用に役立てるツールとなっている。