過去の質問事例を配布したうえで、実際の対応を横で聞くといった研修も設けられたが、不安を拭いきれないコミュニケーターから「過去の受電を記録したテープを聞いてみたい」という要望があがってきた。当初の予定にはなかったことである。「そこまでしなくても」という声もあったが、小河は受け入れる方向性を示した。それにより研修の期間が多少延びても、女性たちの不安が解消できるなら結果オーライである。

「行員なら、とりあえず1度やってみて、問題があれば修正して……という方法を取るでしょうし、私自身もそうしてきました。でも、派遣の女性の多くは、一定の期間、社会から離れています。だからこそ、いまの仕事は自信を持ってできるけれど、新しいことを始めるのにはすごく抵抗があるんですね。それを理解して、多少時間はかかっても、不安の払拭を第一に考えてあげないと」

研修の計画にしても、1つの段階ごとにスケジュールを伝えるのではなく、最初に全体像を示してあげることが大切だとチームリーダーに提案した。ゴールまでの全体像を頭に入れて、そこに気持ちも合わせていかないと不安が募り、本来持つ能力を十分に発揮できなくなる負のスパイラルに陥ってしまう可能性がある。立場は違えど先が見えないことに対して不安を抱きがちな派遣社員の気持ちも、同じ女性である小河にはよく理解できる。

「職場の主役はコミュニケーター」と小河は強調するが、主役である彼女たちが安心してコールを受けられる環境づくりこそ、第一に考えなければならないことなのだ。小河が受電の現場にできるだけ顔を出すのもそのため。もちろん、環境を整えるには、実務を取り仕切るチームリーダーの力はなくてはならないものだ。

「いつも、みんなでバックアップしている」という姿勢を示してあげれば、派遣の女性たちも年齢やブランクを超えて存分に力を発揮できる。それははっきりとした数字には表れずとも、長期的に大きな「利益」となるはずだ。

営業のセクションが攻撃の部隊なら、コールセンターの業務はいわば守備固め。そこには強烈なリーダーシップよりも、むしろなにがベストなのかを常に自分に問いかけながら、柔軟に進める監督が必要とされているのではないか。「いまも試行錯誤の連続です」と素直に言える小河の謙虚な姿勢こそが、守りの部署をこれからガッチリと1つにまとめていく力の源になるに違いない。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(澁谷高晴=撮影)
【関連記事】
高収入でも危機感!妻を戦力化する方法
「主婦パート宣言」で「口ベタ企業」脱出! -しまむら社長
心理学が解明! ヤオコー「22期連続増収増益」の秘密
成功する女性キャリア、落ちる女性の働き方
「女性だけの職場」は女性リーダーを育てるか?【1】