Q 『プロフェッショナルサラリーマン』には、上司から指示を受けたらすぐ仕事にとりかからず、まずは目的と背景を確認せよと書いてあります。私もそうするようにしているのですが、困ったことに私の上司は最初に目的を確認しても、あとから言うことがコロコロ変わるのです。これでは確認しても何の意味もありません。このような上司には、どのように対処すべきでしょうか。(コンサルタント、女性、35歳、入社10年目)


A 後から言うことがコロコロと変わる上司ですか。たしかにそういう上司はどこにでもいるでしょうね。

 頼まれたことを「やっておきました」と報告すると、自分が頼んだことすら忘れていたり、「それはもういいからこっちやって」という展開になるのが典型的なパターンです。

たしかに、こういう上司がいる中で目的と背景を理解しても意味がないと感じるのも無理はありません。

ただ、確認しておきたいのが、上司の言うことは本当にコロコロ変わっているかどうか、という点です。

上司の目指す方向性に変わりがないとしたら、実は上司が指示内容を変更することは自然なことなのです。

指示そのものは手段であるととらえている上司からしてみると、目的はなんら変わっていないので、時間の変化に応じて手段を柔軟に変えていくのはむしろ当然のこと、という見方もできます。

言うことは変わるけれど、それは表現が変わるだけで、中身は同じということだってありえます。だからこそ目的と背景を確認する癖をつけることは、自分の身を守る防御策となるのです。

でも、そうではなくて、上司が本当に方向転換ばかりしているというなら、これはもう上司との勝負です。上司と勝負しながら自分の判断能力を磨いていくしかありません。

具体的には、命じられた仕事をすぐ着手するのではなく、しばらく寝かせておくことです。「この上司の言うことはいつも思いつきにすぎない」とか、「どうせあとでお偉いさんが修正してきて細かい変更があるだろう」などと予想がつくなら、ワンクッション置いて様子を見る。案の定、「悪い悪い、このあいだ頼んだあれ、やっぱりこういうふうにしてくれない?」と言われたら「大丈夫です、まだ間に合います」とか何とか言っておく。こういうことは僕もよくやっていました。

勝負どころは、寝かす期間や頻度をどこまで正確に予想できるかです。ここで自分の解釈力というか、状況を読む力が問われる。たかをくくって手をつけずにいた仕事について、「あれ、どうなってる? ちょっと見せて」と言われたら、それは自分の見通しが甘かったということですから、徹夜してでも急いで仕上げなくてはならない。

けっこうスリリングですが、そうやって絶え間なく仕事の重要性を判断する訓練をしていくと、自分が磨かれていきます。

それにキャリアのプラスになる仕事と、そうでない仕事は区別したほうがいい。

サラリーマンには、たまに「これはすごいチャンスじゃないか?」という仕事が巡ってきます。その仕事を成功させたことで自分の評価が上がり、その後のサラリーマン人生が一変してしまう仕事というものがある。

でもいざチャンスが巡ってきたとき、たいしたことのない仕事で全力を使い果たしていたら、ここ一番の上昇気流に乗ることができなくなってしまう。

たとえは悪いですが、あなたは犬で、上司は飼い主のようなものです。犬は飼い主が投げたボールを走ってくわえて戻ってきます。今のあなたは飼い主である上司が、とんでもない方向にばかりボールを投げるので、もうゼイゼイハアハアいっている。疲労困憊してしまって、「もうこの飼い主は信用できない。ボールを投げられても取りに行きたくありません」という状態だと思うのです。

こうなると千載一遇のチャンスを投げられても、それを全力で取りにいくことができなくなってしまう。

そうならないためにも、ダイヤのような仕事と石ころのような仕事は峻別して、ダイヤのほうに全力を尽くす必要があります。

上司の気まぐれに振り回されて、実力を出せないのではもったいない。このような上司のもとでは、限られた時間の使い方や指示の軽重を見極める力をつけることで、自衛することも必要だと思います。

こうしてみると、上司の指示がたびたび変更されることに嫌悪感を持ち、それを入口で分別しながら自分の仕事内容を決めていくというのは、少し高度な技術かもしれません。

今日の回答はプロサラの応用編ととらえていただいても良いかもしれませんね。

※本連載は書籍『プロフェッショナルサラリーマン 実践Q&A』に掲載されています(一部除く)

(撮影=尾関裕士)