境界マネジメントを機能させるための「6つの要素」

では、どうしたら境界マネジメントが機能するのか、境界コントロール実感を高めるには何をすればいいのかを考えていきます。

基本的に境界マネジメントはセルフマネジメントのスキルであり、ビジネスパーソンの一人一人が自分に合ったやり方を見つけ、工夫し、実践していくべきことです。あなたの人生はほかならぬあなた自身のものであり、あなたが理想を設計し、拡張し、責任を持ちます。こうした意識を「ライフ・オーナーシップ」(人生主権)と言います。

具体的な行動は、境界マネジメントの方策として他の人がどんな工夫をしているかを参考にするといいでしょう。筆者は定量分析から6つの要素を抽出しました(行動例は自由回答の内容を6要素に当てはめたもの)。

セルフマネジメントの6要素

【切断】予定していた退勤時間になったらきっぱりと仕事を止める。仕事要因を家に持ち帰らない。仕事の話は極力家族の前でしないなど。

【感情抑制】家では仕事のことを考えない。仕事が終わったら音楽を聴いたりアロマを焚いてリラックスする。散歩で気分転換するなど。

【計画】リモートワークでは終わりを決める。勤務時間外にはプライベートな予定を入れる。朝は早起きして一人の時間をつくるなど。

【縮小】家電を活用して家事や仕事をできるだけ時短にする。子育ては(親や親戚など)頼れる人に頼む。ダラダラとパソコンを開かないなど。

【調整】会社からの連絡は緊急時以外とらない。定時で帰れるよう仕事を調整する。休憩時間や離席中は周囲にそれとわかるように示すなど。

【優先】プロジェクトごとに仕事の優先順位をつける。定時を過ぎたら子どものことを第一にする。子どもの行事のときは必ず休みを取るなど。

これらの方策は「境界マネジメントのためにはこれをすべき」というタスクリストではありません。例えば、ある人にとって家事は縮小の項目でも、別の人にとっては気分転換として機能しているかもしれません。いろいろ試して自分に合ったスタイルを確立していくことが大切です。

家族優先、途中抜けOK、上司の声掛けの有用性

上司の立場にある人は、部下が少しでも境界コントロール実感を得られるよう協力してあげてください。上司が業務都合ではなく個々の希望に応じて休みを取らせてあげたり、柔軟な働き方を許容していることが、境界マネジメントの実践に特に影響することがわかっています。

例えば、部下から早退や有休取得の申し出があったときに許可するだけでなく「家族優先でいいよ」「途中で抜けてもいいから」と声を掛けてあげるだけでも、当人の境界コントロール実感はぐんと高まります。

1on1での対話を通じて境界コントロール実感を得られているかどうか気にかけ、個々の事情や体調その他の希望に寄り添ったアドバイスができるといいでしょう。

人事管理部門は長時間労働の是正、有休取得の促進、柔軟で多様な働き方の許容(テレワークを理由に低評価しないなど)の制度整備が、社員の境界マネジメントの支援になります。そうした施策は先に述べた通り、社員の離職防止や自発的貢献意欲の向上につながりますし、特にハイパフォーマー層においては管理職意向を高めますので中長期的にも組織の進展につながっていくはずです。

まずは境界マネジメントの重要性や技法を社内で周知し、共有するところから始めてみることをおすすめします。境界マネジメントを実践することで、仕事も私生活も充実させることができます。一歩を踏み出し、より良いワークライフバランスを目指しましょう。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月5日号)の一部を再編集したものです。

(構成=渡辺一朗)
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