希望を聞いてもらえない「20代男性」と「育児期男性」

まず、境界コントロール実感と人生満足度の関連性を属性別に分析し、どの層に境界コントロールがもっとも有効かを検証します。ここでは多くの人が「仕事と私生活の切り分けが人生への満足にもっともつながるのは、育児期の女性だろう」と思われるのではないでしょうか。

確かに育児期の女性は時間不足感が高く切実な切り分けのニーズを抱えていますが、人生満足度との関連では、実態は少し違っていました。「20代女性」「育児期女性」の境界コントロール実感と人生満足度の関連性はそれほど高くなく、もっとも強い相関が見られたのは「20代男性」「育児期男性」だったのです。「子どもが熱を出したから早退しなければならない」「学校行事に参加するので有休を取りたい」など、仕事と子育ての両立に苦労している女性の声はよく聞きます。社会的にも子育てを社会全体で支援していこうという機運があります。

その一方で、若手として職場でこなさなければならない仕事量の多い20代男性、積極的に子育てに参加したい育児期男性はなかなか希望を聞いてもらえず、境界マネジメントに苦労しているのかもしれません。

「仕事をしているときが一番幸せ」な上司は要注意

ここでもう一つ、看過できない実態があります。50代男性では境界コントロール実感と人生満足度に、ほとんど関連性が見られなかったのです。つまり、この層にはそもそも境界マネジメントのニーズがなく、コントロールできたところでそれほど喜びを感じないということです。

もちろん、本人が仕事と私生活を切り分ける必要性を感じないのであれば、それ自体は問題ではありません。今の50代の多くは80年代バブル期に社会人になった世代ですから、仕事をしているときにいちばん幸せを感じるのかもしれません。

ですが、上司として職場のマネジメントをする際に自分の価値観をベースとしてしまうと、仕事と私生活を切り分けたい部下の思いを理解できないのではないでしょうか。境界マネジメントは個々が学び実践するセルフマネジメントのスキルとはいえ、上司の理解や職場の支援は不可欠です。

次に、境界コントロール実感がどの層に有効か、人事評価との関連性を見てみましょう。直近に受けた人事評価と境界コントロール実感の高低が、継続就業意向(今の会社で働き続けたいか)/管理職意向(昇進意欲があるか)/バーンアウト傾向(燃え尽き感の有無)とどう関連していくかを分類しました。

その結果、人事評価が平均5以上の社員については境界コントロール実感が高ければ軒並み継続就業意向が高くなることが明らかになりました。また、人事評価8〜10のハイパフォーマー層では境界コントロール実感の高低にかかわらず継続就業意向が高かったものの、境界コントロール実感が高いと管理職意向が高いのに対し、境界コントロール実感が低いとバーンアウト傾向になってしまう結果となっています。

会社としては、能力の高いハイパフォーマー層には転職せずに仕事を継続し、昇進して責任ある役職に就いてもらいたいと考えているはずです。であるならば、質量ともに仕事が過度にならないよう配慮しつつ、本人が働き方の裁量権をより多く持てるようにして、境界コントロール実感を得られるようにしてあげることです。