難民問題を議論することすら避けてきたドイツ政府
ドイツ政治は長い間、イスラムテロの危険を無視し続けてきた。そして、それを指摘する者、つまりシュトゥルツェンベルガー氏などは、極右、差別主義者の烙印を押されたため、はっきり言ってドイツでは、難民問題に関しては議論の余地さえなかった。
不法入国をした外国人は、難民の申請をしたら最後、たとえ難民認定が却下されても、母国送還が実施されることは稀だった。しかも、それは重罪を犯して捕まっている難民申請者でも同じだった。緑の党は、たとえ重罪犯といえども、死刑になるかもしれない国に戻すのは、人道に反するとして送還に反対している。
ちなみにAは働いておらず、市民金で生活しており、これまで危険人物として警察にマークされてはいなかったという。市民金については、昨年12月30日付の本欄〈「ドイツの手篤い社会保障」が目当ての難民が続々と…「難民ようこそ」と言っていたドイツ人が拒絶を始めた理由〉で詳しく書いたが、受給者は家賃全額援助などさまざまな援助を受けられるので、子供手当と合わせれば、低賃金で働くよりも条件が良い。現在の政権成立後、社民党の労働相が導入した“自慢”の社会福祉制度である。
ドイツで難民が急激に増えたのは、2015年9月、メルケル前首相が中東難民に国境を開いた後だったが、実は、2022年以来、ヨーロッパ全体で再び難民の流入が激しくなっている。
外国人による犯罪件数が急増している
しかし、現在のショルツ政権は、それを積極的に止めるつもりがなく、EUの他の国が次々と難民対策を強化しているにもかかわらず、「国境防衛」や「違法難民の母国送還」は口先だけだった。政権内にいる緑の党に至っては、誰がドイツ人かわからなくなるほどたくさん他国の人たちが入ってくるのは、実は大歓迎なのだ。
ただ、そうして入ってきた外国人の増加により、最近のドイツでは、50年も前からいたレバノンギャングや、クルドギャングと、2015年以降、急激に増えたシリアの暴力グループの縄張り争いで、何十人、時には100人を超える武力衝突が相次ぐようになった。つまり、難民の無制限受け入れの弊害は経済負担だけでなく、明らかな治安悪化となって現れている。
22年から23年にかけては、ナイフを使った暴力事件が急増。連邦検察庁が23年11月に発表したところによれば、同年11月までに届出があったものだけでも、ナイフによる殺傷事件は2万件。毎日60件起こっている計算となる。暴力犯罪の摘発数も前年比17%増で、容疑者が外国人であったケースが23%増。