なぜ「ボーリング調査」はここまでこじれたのか

この結果、森副知事は2023年5月11日、「静岡県が合意するまでは、リスク管理の観点から県境側へ300メートルまでの区間を調査ボーリングによる削孔さっこうをしないこと」とする意見書をJR東海に送った。

つまり、静岡県は、県境手前約300メートルの断層帯付近で、「山梨県の調査ボーリングをやめろ」と正式に求めていた。

もともとは、その前年の2022年10月13日、リニア工事に関する新たな協議を求めるとした意見書をJR東海に送ったことが、この問題の始まりだった。

山梨県内のトンネル掘削で、距離的に離れていても、高圧の力が掛かり、静岡県内にある地下水を引っ張る懸念がある。静岡県内の湧水への影響を回避するために、「静岡県境へ向けた山梨県内の工事をどの場所で止めるのか」を決定する必要があるという主張だった。

静岡県の「言い掛かり」を完全には否定できなかった

この意見書を受け取ったJR東海は静岡県の要請に困惑してしまう。

理論上、トンネル掘削することで高圧の力が掛かり、トンネルに向けて地下水を引っ張ることはありうる。だから、JR東海も静岡県の要請を頭から否定できなかった。

ただ、断層帯がない限り湧水量は極めて微量であり、さらに締め固まった地質では引っ張り現象が起こらない可能性のほうが高い。

しかし、静岡県境に向けて約300メートルを越えれば、山梨県内の断層帯にぶつかる。そこでは、湧水の可能性は十分にある。ただ実際には、調査ボーリングをやってみなければ、湧水があるのかどうかさえわからないのだ。

驚くべきことに、当初は、先進坑というトンネル掘削に対する懸念だったものが、静岡県はいつの間にか、「調査ボーリングそのものをやめろ」と主張するようになってしまった。

その象徴的なシーンが、2022年12月11日に開かれた大井川流域10市町長と県地質構造・水資源専門部会委員との初めての意見交換会だった。