県議会でも「大量湧水のリスク」を強調

これに対して、山梨県の長崎幸太郎知事は「山梨県の工事で出る水はすべて100%山梨県内の水だ」と断言した上で、「山梨県内のボーリング調査は進めてもらう。山梨県の問題は山梨県が責任をもって行う」などと強い調子で山梨県内の調査ボーリングを進めることを宣言した。

さらに副知事時代、静岡県のリニア問題責任者だった難波喬司・静岡市長は独自の計算を行い、調査ボーリングによる湧水量は、先進坑掘削に比較して、1.8%程度しかないと推定した。「県の推定は過大評価である」との見解を示し、「ボーリング調査は進めるべきだ」と県と真っ向から対立する姿勢を示した。

これが6月県議会で問題となると、川勝氏は「本県の水資源を守るためには、大量湧水の発生を想定し、事前に対応を決めておく。どういう対応をされるのかがわからないので、それを教えてくださいと言っている。工事をするなと言っているわけではない。どういう対応をされるのか、そのリスク管理について尋ねているが、答えが出てきていないのが現状だ。このリスク管理が大変重要であると認識して、JR東海に要請している」などと回答した。

これで5月に送った意見書を取り下げることはなくなった。

あれだけ反対していたボーリング調査を一転容認

その後、いったんは、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」が議論の俎上そじょうに上がることがなかった。それが、2024年2月5日になって、再び、リニア問題の中心テーマに躍り出た。

森副知事らによる「リニア中央新幹線整備の環境影響に関するJR東海との『対話を要する事項』について」と題する記者会見で、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」をJR東海との新たな「対話」項目に取り上げたのだ。

川勝知事の辞意表明2カ月前であり、“知事御用達”と言える難くせだった。

そこには、「静岡県内の断層帯と山梨県内の断層が下で繋がっている可能性があることから、山梨県側からのボーリングによる健全な水循環へ影響する懸念」があるとして、「高速長尺先進ボーリングが、JR東海が慎重に削孔を進める県境から山梨県側へ約300メートル区間の地点に達するまでに、その懸念に対する対応について説明し、本県等との合意が必要である」としていた。

ところが、5月13日に開かれた地質構造・水資源専門部会では、不思議なことに疑問点への追及は全くなく、山梨県内の調査ボーリングは問題なしとされた。

つまり、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」を取り下げたのだ。さらに、先進坑掘削、本坑掘削でも何らの意見が出なかった。つまり、山梨県内のリニア工事すべてを暗黙のうちに認めてしまったのだ。