動物の繁殖戦術は多種多彩です。とりわけオスは、メスを巡って戦うために体を大きくして立派な角を持ったり、メスに選ばれるために美しい声や羽を持ったりと、繁殖で有利になるように同じ動物種で同じ方向に進化する様が頻繁に観察されます。
一方、同じ動物種の同性内で複数の繁殖戦術(代替繁殖戦術)が見られる場合もあります。たとえば、ヤリイカではオスが体の大きい集団と小さい集団に分かれ、大きいオスたちは正攻法で他のオスと戦ってメスを勝ち得て繁殖するのに対して、小さいオスはカップルの隙をついてメスに自分の子を産ませようとする、いわば「間男(まおとこ)戦略」を取ることが知られています。
東京大学大気海洋研究所の岩田容子准教授らの研究チームは、ヤリイカのオスの繁殖戦術は誕生日によって決定されることを明らかにしました。つまり、ヤリイカのオスは生まれた瞬間に、繁殖の際にライバルと正攻法で戦うか間男になるかが決まっているということです。研究成果は生物学術誌「Proceedings of the Royal Society B: Biological Science」に掲載されました。
ヤリイカの世界では、誕生日によってオスの運命が決まり挽回がきかないとのことですが、この研究ではどのようにして確認したのでしょうか。概観してみましょう。
ペアに割り込み、メスの体外にちゃっかり精子を付ける小型オス
寿司だねや刺身として身近な食材のヤリイカは、寿命が1年しかありません。生涯で1回の繁殖期(1月から5月頃)が終わると死亡し、オスの繁殖戦術は一度決まると繁殖期の途中では変更されないと考えられています。
ヤリイカのオスは、繁殖のために他のオスと戦ってメスとカップルになる“ペア”オスと、ペアに割り込んでちゃっかりと自分の子孫を残す“スニーカー”オスに分かれます。ちなみに“スニーカー”オスとは、「こそこそした」や「卑劣な」という意味を持つ「sneaking」から名付けられており、他のオスの目をかいくぐったり欺いたりして戦いを避けながら、繁殖可能なメスに近づくオスを表します。
岩田准教授らはこれまでもヤリイカの繁殖戦術を研究しており、①ヤリイカのオスには大型と小型の2種がいること、②大型オスはペアになりメスの体内(輸卵管)に精莢(精子のカプセル)を付け、小型オスはペアに割り込みメスの体外(口周辺)に精莢を付けるという代替繁殖戦術を行っていることなどを観察していました。