3歳の娘が口にした「パパ、お仕事行かないで」

でも、仕事をすればするほど、子どもたちと過ごす時間はなくなって、どう接していいかも分からなくて、子育てに対する不安が大きくなっていきました。

そんな時、いつものように仕事に出かけようとしたら、3歳のくーちゃん(次女)が玄関で両手を広げて「パパ、お仕事行かないで」って通せんぼするんです。「ごめんな、パパ仕事やから」と言うと悲しそうな顔をする。全然家にもいないし、何もしてやれてないのに、こんなことを言ってくれるんだと思いました。

とはいえ仕事があるから、僕はくーちゃんの頭を撫でて、行ってきますと玄関を出て車に乗ろうとしました。当時はボロボロの集合住宅みたいなところに住んでいて、そこの駐車場から自分たちの部屋のベランダが見えます。くーちゃんはベランダに出て、室外機の上に乗って、ベランダからずーっと手を振っていました。

僕はその時、それまで抱いたことのない感情になりました。

あったかい、胸が締めつけられるような感覚でした。

僕は自分の父親に対して、そんな感覚を持ったことなんて、一度もなかった。家にいない方がいい、早く仕事に行ってくれ、出てったら帰ってこないでほしいと思っていたくらいなのに、くーちゃんは「お仕事行かないで」って僕を引き止めてくれる。

僕を求めてくれる人がいるんだと、そこでまた、凍っていた心が解けていく感じがしました。

何もしてあげられなくても存在を求められる

僕は仕事をして金を稼げば幸せになれると思い込んでいたので、その時は正直家族なんてどーでもよくて、ママにも「仕事が一番やから」と堂々と言っていました。

というか、家族を守るためとかじゃなくて、不安を消し去るため、自分のために、仕事のために仕事をしていたと思います。親父みたいにならないように必死に仕事をやっていたつもりが、どんどん家族との距離を遠くしてしまっていました。

なんか常に戦闘態勢やないけど、いろんなことに鋭敏で、神経を尖らせていて。僕は誰にも騙されないぞ、絶対に生き抜いてみせるぞ、成功してやるっていう、謎のギラつきがずっとあったんです。

ママと結婚して子どもたちが生まれて少しずつその鎧が剥がれていきましたが、そのきっかけの一つが、くーちゃんの「お仕事行かないで」でした。

自分の家族が「見返りがあるからする」みたいな関係やったので、僕は何もしてあげられていないのにくーちゃんは僕を求めてくれるんだ、求められるってこんな感じなんだって思って。

それから、ママに子どもたちや家族に対する考え方や接し方を教えてもらいながら、ちょっとずつちょっとずつ変えていきました。