もう一つ、先に言った意見が通りやすい「アンカリング効果」も知っておくといいでしょう。会議では最初に出た意見が議論の前提となりやすく、最初の人が「反対」を表明すると、その意見に場が支配され、2人目以降の人も反対する確率が高まります。ランチのケースでも、相手が「今日は何を食べる?」と言ったとき、先に「和食がいいかな」と言えば、「じゃあ和食にしようか」となる確率が高まります。相手の意見を否定することもないので相手も不快になりません。

【図表】自己開示の法則

【法則2】断り方の引き出しを増やすほど断り上手になる

まじめな人はなぜ、断れないのか。それは「相手に嫌われたくない」からです。相手が上司であれば「昇進に響く」と考えるかもしれません。では、上司の頼みごとを何でも聞く便利屋が、他の人よりも早く昇進しているでしょうか。実際には少ないはずです。それはフリーランスで働いている人も同じです。実は仕事を断るほど、仕事が増えます。仕事を断る人は、それだけ人気があることを意味しますから、断ってもまた依頼が来るのです。

断ることでデメリットを生じさせない、さらにメリットに変えるためには、断り方が大事です。「断り方の引き出し」をたくさん持っておき、相手を不快にさせないようにするのです。

言い換えれば「言語化」の能力がポイントになります。日本人は自分の思っていることを言葉にするのがとても苦手です。上手になるには練習しかありません。まずは、小さな言語化から始めてはどうでしょうか。断るか、断らないかの0・100ではなく、伝え方の問題です。たとえば、上司に「今日残業して」と言われたときに「嫌です」と断れば、上司は嫌な気分になるでしょう。そうではなく、上手に言語化すれば問題が起きません。私は「断りの公式」を利用して言語化することを勧めています。

断りの公式は「謝罪(感謝)+理由+断り+代替案」です。残業を頼まれたときであれば「すみません(謝罪)。選んでいただいて大変ありがとうございます(感謝)。今日は子どもと出かける約束があって(理由)、残念ながらお引き受けできません(断り)。明日の午前中でしたら終わらせることができるのですがいかがでしょうか(代替案)」と言語化します。

断りの公式は順番も大事です。まずは「謝罪(感謝)」の言葉でクッションをはさんでから、「理由」を伝えます。その後に「断り」を述べて、「代替案」を提示するのです。これで誠意のある断り方ができます。

上手に断るには、人生の中での「優先順位」を決めておくことも大事です。「家族」が最も大事であると考えるなら、「土日は家族と過ごす時間」とルールを決めてしまいます。上司から休日出勤を頼まれた場合には「申し訳ありませんが、土日は家族と過ごす時間にしているので」と断ります。ルールを決めておくことで、即座に断ることができます。「迷わずはっきり断る」ことが大事です。「えっと、そうですね……」と迷っていると、「そこを何とか頼むよ」と畳み込まれます。迷っているのは断る明確な理由がないからだ、と相手は思ってしまいます。すぐに断ることで「受けられない理由、意思の固さ」が相手に伝わります。そのためには、相手が不快に思わない方便をたくさん言語化しておくことも大事です。