ベルト1本で本の散乱は防げる

地震の揺れが何分も続けば、オフィスは巨大な洗濯機の中で、机と人がかき回されたのと同じ状態になります。こうした中で生身の人間が無傷でいられるわけがありません。会社のロッカーや自宅の洋箪笥の下敷きになって重傷を受けないために、いまからできることはたくさんあります。こんなことは科学の進歩を待たなくても可能なことなのです。

東日本大震災でも、前もって準備をおこたらず被害を最小限に食い止めた人がたくさんいます。私の大学時代の同級生である東北大学の宇田さとし名誉教授は、仙台市内の研究室の本の散乱を、ベルト1本で防いでいました。本棚はすべて壁に固定してあるだけでなく、本棚の前にかけられたベルトが、膨大な書籍の散乱を防いだのです。

「ベルト1本でも十分に有効だった。なぜみんなはこうしなかったのだろう」と彼は私に語ってくれました。彼は宮城県沖地震が到来することを予測して、このような処置をしていたのです。まさに科学の力を知り、なおかつ自分ができることを行った人の行動そのものであり、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

ベッド周りの「危険物」はすべて取り除く

私も同様の準備を我が家の寝室にしています。頭の上に落ちてくるものは何もないように、本棚や家具などすべてを片付けたのです。厳密には、小さなカタツムリのぬいぐるみが落下するだけです。

鎌田浩毅『首都直下 南海トラフ地震に備えよ』(SB新書)
鎌田浩毅『首都直下 南海トラフ地震に備えよ』(SB新書)

商売柄、私はたくさんの本を抱えて暮らしているのですが、一念発起してすべての本を一部屋にまとめました。23連ある本棚もすべて固定してあります。

マンションのため天井に穴を開けることができないので、家具屋さんに頼んですべての本棚を鉄の棒で互いに連結してもらいました。いとも簡単にできたのですが、これで本棚の倒壊は完全になくなりました。

みなさんの中には、すでに固い地盤の上に建てられた耐震性の高い家に住んでいる方もおられるでしょう。しかし、もし家具が固定されていなければ、大ケガをする可能性はちっとも減っていないのです。家屋の無事が確保されても、室内で重傷を負わないように、今日から準備していただきたいと思います。

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