事業の撤退だけは考えなかった

ただ、事業の撤退だけは考えませんでした。常に前を向くことが、私の経営哲学です。悩んでいても、家の中にいては何も考えが出てきませんから、やっぱり現場に行くのがいい。香港や中国の展示会に自ら出向いて、何か新しいものがないか探して回りました。美容器具で面白いものがあったら試してみる。「サロンのお客さんにウケるんじゃないか」と思ったら、日本に持ってきてすぐに導入する。商品開発や商売に繋がるネタを、足を使って集めていきました。とにかく毎月アイデアを生み出したり、新しいサービスを導入したり、海外でいろいろネタを見つけたりと、奔走しました。

転期が訪れたのは、中国の一般消費者に向けて商品を作り始めたことです。

きっかけは販売代理店のオーナーからの提案でした。彼女は中国のECサイトでも商売をしていて、そこで非常に人気だったのがメイド・イン・ジャパンの美容アイテム。ただ、大手の製品は手に入りづらい状態が続いていました。「あなたも日本のメーカーだから作れないの?」と懇意にしていた私に相談してくれたのです。市場を調査したところ、美容ドリンクが開発できそうでした。

すぐにはヒットしませんでしたが、1年かけて味やビンなどを改良し、リニューアル。そこから爆発的ヒットになりました。毎月2万箱を製造しても、入荷する前から買い付けが入るほど。この美容ドリンク(AGドリンク)は、今でも当社の看板商品です。これまでBtoBの事業が中心でしたから、急にBtoCの商品が売れたときの経営へのインパクトはものすごかった。市場が10倍は違います。BtoCのマーケットの大きさに感動しました。

悪い状況を打破する力より強いものはない

美容ドリンクがヒットしたことで一気に会社の知名度も上がりました。ただ、一つの商品だけで勝負するのは危ない。業績がいいときでも、常に会社やブランドの宣伝をして、他の化粧品も売れるように工夫を続けて、今に繋がっています。

経営していて悩むことはありますが、悪くなったからもうダメだ、と思ったことは一度もありません。悪いときこそ前進する。悪い状況をどう打破すればいいかを考えるエンジンのパワーほど、力強いものはありません。また逆境も待ち構えているでしょうが、ピンチこそチャンスに変えて、さらに事業を大きく成長させたいです。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月31日号)の一部を再編集したものです。

(構成=東香名子 撮影=大槻純一)
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