中澤さんが最も心掛けているのは店内の「空気」を整えること。

「空気は店とお客様とでつくるものですが、たまには空気を乱す人もいますよ。他のお客様に迷惑がかかるときは一瞬“棘”を出します」

棘を出したところを他のお客が目撃すると心地悪いから、話題を振ってお客同士で話が弾んだ瞬間を見計らって「困りますよ」と諭す。

「気配りはお客様に迎合することとは違います。困ったお客様に嫌われることが、本当のお客様に対する心遣いになることもある」

親方は子どもたちに対しても気を配る。昔の寿司職人の世界はガチガチの縦社会だったから、親方は拳固で教えればよかったが、今は時代が違う。

「どの子も同じように叱ることはありえない。きつく叱ったほうがいい子、きつく叱ってはいけない子、すぐに叱ったほうがいい子、しばらく見て見ぬふりをしたほうがいい子というように、子どもたちの性格によって変えています。だからといって、なぜオレだけと思われてもいけない。叱ることはコハダを締めるのと同じくらい難しい」

一方で「子どもたちが感じたことを言える環境をつくっている」とも。毎日仕事が終わってから行う反省会では「あのお客様は本当は光り物が嫌いのようでした」といった中澤さんも気がつかなかった指摘も出る。そうやって話し合うことで店全体の温かい雰囲気が磨かれる。
「お客様を幸せにするために仕事をしているという原点に立ち返って考えれば、難しいことではない」と中澤さん。気配りが苦手な人は、仕事の原点を忘れかけているのかもしれない。

※すべて雑誌掲載当時

(大沢尚芳=撮影)
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