ポッドキャストで新しいリスナーを獲得
もう一つ。注目したいのは、やはりネット配信サービスの「ポッドキャスト」だ。
もともとは米アップル社の携帯音楽プレイヤー「iPod(アイポッド)」と放送を意味する英語の「broadcast(ブロードキャスト)」を組み合わせた造語で、ネットを通じて配信される音声番組全般を指す。アップル・ポッドキャストやグーグル・ポッドキャストなどの専用アプリを使うことで、ラジオ番組はもとより、さまざまなジャンルのトークや音楽を聞くことができる。
ラジオ界もその効用に気づいて力を入れ始め、番組を提供する社も増えてきた。radiko同様に、若年層を中心に新しいリスナーを獲得し、ラジオの裾野を広げつつあるようだ。つまり、ネット配信は、放送エリアが限定されている「地方区」のAM放送を「全国区」に変貌させてしまうのである。
ただ、いずれのサービスも、ネット環境がなくては楽しむことができないし、高齢者やネット環境の悪いエリアの在住者にとっては縁遠いツールでもあることは留意しておきたい。
可能性が広がるラジオ、先の見えない新聞とテレビ
ラジオの主要収入である広告費にも、気になる変化が芽生えている。最近、底を打った感があるのだ。
電通によれば、20年に1066億円にまで落ち込んだが、21年1106億円、22年1129億円、23年1139億円と、微増ながら3年連続でプラス基調に転じている。先の見えない新聞やテレビとは、ちょっと様相が違う。
ラジオには広告主の根強い支持があるが、ネット配信の広がりとともに広告効果の高まりを感じ取っているのかもしれない。「放送の広告をradikoにも流せば、広告単価を上げることができる」と、ラジオ関係者は期待感を口にする。なにしろ、リスナーは全国に広がるのだから。
一方、「AMのFM転換」は、AMラジオ社のランニングコストを下げる可能性がある。AMとワイドFMのサイマル放送は、二重の設備維持コストがかかり大きな負担になっているが、ワイドFMに一本化されれば実質的なコスト削減につながるだろう。
収入と支出の両面で改善されれば、経営にプラスに働かないはずはない。
リスナーにとっても、ネットで全国のラジオ局の番組に接することができるのであれば、ラジオライフはより充実したものになるだろう。
そうなれば、凋落著しいオールドメディアのマスメディア4媒体(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ)の中で、ラジオは将来に明るさも見えてくる。
「AM放送の廃止」がラジオ復活の起爆剤になる
視覚の「可処分時間」は飽和状態とされるが、耳の「可処分時間」いわゆる「耳時間」はまだまだ空いているといわれる。ネット配信サービスは、伸びしろが大きいだけに、ラジオの復活に向けた期待を一身に背負うことになりそうだ。
「AM廃止」は、ラジオ100年の歴史に一時代の終わりを告げようとしているが、同時にラジオ界にとって次の100年を見いだす転換点になるかもしれない。