「ふつうの高校出た人の話が聞きたい」
将来の志望は看護師。石巻高校2年生の齊藤啓太さん。卒業後に進む学校はどこですか。
「もう、ほぼ決めてます。最初、宮城大目指してたんですけど、宮城大で看護行くには、理科科目2つ取らなきゃならないんですよ」
宮城大学は1997(平成9)年に看護学部と事業構想学部を持つ県立大学として開学、2009(平成21)年より公立大学法人となった。学部学生数約1800名。看護学部は、仙台市北部の高級住宅地「泉パークタウン」の裏にキャンパスがある(住所は黒川郡大和町)。
「でも俺、化学が苦手で。ちょっと理系は無理なんで、宮城大は推薦を狙って、駄目だったら一般入試は受けないで、生物だけで行ける看護大に行こうかと。公立で、長野に長野県看護大看護学部、岐阜に岐阜県立看護大看護学部っていうのがあって、そこですね。長野が偏差値58で、岐阜が57。今んところB判定です」
長野県看護大学は木曽山脈の裾野、長野県駒ヶ根市にある。1994(平成7)年開学、学部学生数約340名。今も石巻と仙台をつなぐ鉄道(JR仙石線)は寸断されたままなので、バスで約1時間かけて仙台に出て、東北新幹線、長野新幹線、在来線と乗り継いで約15時間かかる。岐阜県立看護大学は、学部学生数約320人。2000(平成12)年、岐阜県羽島市にて開学。東海道新幹線の岐阜羽島駅から近い。石巻からは約5時間半だ。
長野と岐阜は自分で探したんですか? 石巻を出て、長野や岐阜に行くことになってもかまわない?
「全部自分で探しました。距離は全然かまわないですね。行く時は金かかりますけど、そこで住む分には、遠かろうが近かろうが、同じなんで」
長野看護大までは片道1万7790円。岐阜看護大までは片道2万920円。いやいや、齊藤さんがずっとお金の話ばかりをしていたわけではない。齊藤さんには「この先、どんな人に会って、何を聞きたいか」と訊いている。その答えは、取材ではなかなか捉えにくい「ふつう」の高校生の声そのものだった。
「俺は、スケジュールも詰め詰めで世界を飛び回って活躍してる人に『どうしたらそういうことをできるようになるか?』って聞いてみたいんです。普通の学校、普通の公立高を出て、そういうところに行った人に会って話聞きたい。どんなふうにしたら、普通の人からそうなれたのか、経歴とかも聞きたい。自分の学校は、日本中から見れば中の中レベルくらいの学校だと見てるんで、そういう学校を出て上に上り詰めた人とかに会ってみたい」
次に登場するのは、齊藤さんと同じ石巻高校2年生の松本一馬さん。インタビューに応じてくれた5人のうち、唯一自宅が「全壊」という高校生だ。