人生はグレーだからこそおもしろい

冒頭で挙げた例を構造化してみましょう。

資料の提出が遅い社員Aさんに対して、「Aさんは仕事が遅い。だから、間に合わない。よって、私は残業をしなくちゃいけない。私が間に合わなかったら、私の昇進はないのに……」と思い、不安とイライラを募らせました。

ここでは「Aさん=仕事が遅いから“悪い”」「私が締め切りに間に合わない=私の未来は“ない”」という、2つの二者択一思考が働いていることがわかります。

でも、Aさんからの提出資料が現状まだなだけで、締切に遅れたわけではありません。イライラする前に、直接Aさんに提出のタイミングを確認して、少し時間がかかりそうなら、先に別の仕事を片付けておくこともできるでしょう。自分の仕事に余裕があるのなら、手伝ってあげることもできるかもしれません。

しかも、仮に間に合わなかったとしても、一度の失敗で人生がゼロになるなんて、なかなか考えられることではありませんね。

私たちの生きる世界に二者択一で判断できることなんて、そう多くはないのです。むしろ“白か黒か”で世の中を見ていると、自らの視野を狭めてしまい、結局は自分の心を苦しめることになりかねません。

グレーで不確定だからこそ優しくなれるし、思いがけない出会いが生まれるものです。それが“人生のおもしろさ”だと、ふわっと考えてみませんか。きっと、カラフルな色とグラデーションの世界が広がっていますよ。

「まだできないのかしら」とイライラするビジネスウーマンのイラスト
前田祐樹『ひとりでできる心ほぐし』(マイナビ出版)よりイラスト

6秒数えても怒りは消えない

今まではそんなことがなかったのに、最近、怒りっぽい。

怒りが込み上げてくるとなかなか抑えられず、人やモノに当たってしまうことがあるという人は、すでに心が疲れているサインです。

いつもなら気にならないようなことに過剰な反応を示してしまうのは、その出来事を乗り切るだけの心の余裕がなくなっているからです。

「アンガーマネジメント」という怒りを抑える心理テクニックがあり、具体的には、怒りが湧いてきたときに「6秒数える方法」を聞いたことがある人もいるかもしれません。

この手法によって、怒りのピークをやり過ごせる場合もあります。ただ現実的には、6秒数えたところで怒りがきれいさっぱり消え去るなんてことはありません。

だからといって、怒りに任せて当たり散らしていいわけもありません。

後々、何であんな言い方をしてしまったのだろうとか、モノに当たってしまったのだろうと、自己嫌悪に陥るのが関の山。心の疲労を積み重ねるだけだと思います。そんなときは、別の行動をしてみることをおすすめします。