「三觜さんにはめっちゃ恩があって、今でも感謝しています」

「三觜さんに習ってから、本当、急に良くなって。教えられてから2週間で、ステップ・アップ・ツアーのフンドーキンレディスで2位になりました。それまで予選落ちが続いていたレギュラーツアーでも、富士通レディース5位になって。まさにマジックですよ(笑)。

三觜さんにはめっちゃ恩があって、今でも感謝しています」

幡野選手
筆者

しかし、その年、2019年のプロテストに敗退し、幡野は自分に何が足りないのか、さらに模索する必要があった。好調だったショットも再現性が十分でないことを感じていた。

そこで、紹介してもらったり、自分でコンタクトを取ったりして、他のコーチの指導も受けるようになった。三觜プロにコーチを代えて好成績になったことは、幡野にとってある種の成功体験になったのかもしれない。自分に足りないものを得るために、幡野はそれからさまざまなコーチの門を叩くことになる。

その中で初めて、本格的なゴルフスイング理論を学び、新飛球法則(Dプレーン)と呼ばれる弾道計測器を活用するうえでのベーシックな知識も知った。自分の知識不足も痛感したという。

「井上さんには、弾道計測器の数値の意味はわかっていたほうが良いよ、と言われていたんですけど。初めてそういうことを学んで、自分が本当に何も知らないなと感じました」

ひたすらスイング改造を追求する日々

プロになろうとしているのに、自分が基本的なスイングの知識すら知らないという想いは、幡野をよりスイング改造への道へと突き動かしたかもしれない。何も知らないから、スイングが良くないから、自分にはそこが足りていないんだ、と感じるのも無理はない。

幡野はある時期から、スイングの研究に没頭し、スイング改造を追求するようになった。練習では、必ずスマホで撮影しながら一球ごとに動きをチェックし、ラウンド中であっても新しい動きを覚え込ませるために、何度も何度もドリルを繰り返していた。スイングを良くすることが、自分の問題を解決すると信じて疑わなかった。

練習中の幡野選手
筆者撮影

一方で、あまり考えすぎてもカラダはスムーズには動きにくいものでもある。たくさんの言葉が入ってきたり、随意的にカラダの局所を動かそうとすると、運動のパフォーマンスは下がる傾向にある。これは、ラケットやバットでボールを弾き返すときに、腕やカラダの動きを意識しないことを思い出せば、理解しやすいだろう。

無意識に近い状態で、反射的に動くほうが運動のパフォーマンスは向上するのだ。

私(筆者)は、この取材の中でツアー20勝のトップ選手、鈴木愛プロのスイング改造の話をした。

2019年に7勝をあげ、賞金女王に輝いたスイングをここ2年あまりで大改造を行い、その結果、賞金女王時代よりもはるかにショットの安定感が向上したという。それを示すように、2024年シーズンは序盤から2勝と好調だ。

スイングが良くなったので、「昨年の最終戦、難しい宮崎カントリークラブでも本当に楽に気持ちよく回ることができた」という、鈴木プロのエピソードを話した。ほんの世間話のつもりだったが、幡野はボソッと「やっぱりスイングなんだ……」とつぶやいた。私はこの話をしたことを少し悔いた。