大谷翔平はアメリカ人にどのような影響を与えてきたのか。コラムニストのディラン・ヘルナンデスは「大谷の登場は、野茂、イチローに次ぐまさにその次の進化だった。アメリカ人よりも大きくて、パワーがあって、足も速い。身体的に上回っている。それを受け入れるのに、4、5年かかった」という――。

※本稿は、ディラン・ヘルナンデス、サム・ブラム、志村朋哉『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

米大リーグ/迎えられる大谷
写真=時事通信フォト
ツインズ戦の7回、ソロ本塁打を放ちチームメートに迎えられるドジャースの大谷翔平=2024年4月8日、アメリカ・ミネアポリス

全米レベルのスターがいない野球のモロさ

【トモヤ】野球は正しい方向に向かっていると思う?

【ディラン】グローバルな成長は不可欠になってきている。米国内では、すでに最高のアスリートを他のスポーツにとられているから。そういう意味では、日本では身体能力の高いアスリートの多くが野球を選んでいるのは良いこと。韓国も似ている。ドミニカ共和国などいくつかの中南米の国でも、トップアスリートが野球を選んでいる。

各球団が地元ファンからの支持を基盤に成り立っていることが幸いして、メジャーリーグがなくなるってことはないと思う。各都市は、そこの野球チームと深い関係を築いているから。たとえばロサンゼルスでは、毎試合5万人が入るくらいドジャースと強い結びつきがある。

でも、全米で広く知名度や人気があるスターがいないのは不安材料ではある。レブロン・ジェームズやトム・ブレイディやパトリック・マホームズのような。それに労使関係の悪さが加わる。メジャーリーグには、プロスポーツで一番強力な選手会があるけど、オーナー側との間に長年蓄積された不信感と敵対意識がある。同じ船に乗っていることを理解していないかのような。どこかのタイミングで、以前のようなストライキが起きて、1年くらい試合が中断されるようなことになれば、大打撃を受ける可能性はある。全米レベルのスターがいないことで、他のスポーツよりも脆さがあると思う。

大谷が野球を“クール”にする?

【サム】野球は良い方向に向かっていると思う。野球はディランの言うように地域に根差したスポーツで、NBAのようにスーパースターが主導するようなリーグではない。だから、NFLやNBAとは違ったやり方で成長できると思う。野球人気が低迷しているという見方は誇張されていて、僕は結構、健全な状態だと思っている。

浮き沈みはあるもので、21年から22年にかけての労使交渉で、シーズンがキャンセルなんてことになっていたら大打撃だったと思う。でも野球自体の人気は高いし、存在自体が脅かされる事態というのは想像しづらいね。

【トモヤ】大谷がドジャースのような人気球団の一員としてワールドシリーズで勝つことは、野球にどれだけ良い影響があると思う? 僕は、それによって、大谷がマイケル・ジョーダンとかセリーナ・ウィリアムズといったスポーツファン以外にも知られるようなスーパースターになって、アメリカで野球が「クール」なスポーツとして認知されるようになる可能性はあると思う。