不透明なライセンス契約の弊害

インターネットの高速化とクラウド・ストレージのローコスト化が進むにつれ、ますます多くのモノやサービスがネット空間に流れ込んでいく。そして毎日聴く音楽にも買い込んだ本にも不透明なライセンス契約が適用されるようになる。コーヒーメーカーやサーモスタットからセキュリティシステムや音響システムにいたるまで、モノのインターネット全体にそうしたライセンス契約の効力がおよぶことになるのである。

ブラウンの電動歯ブラシOral-Bのアプリがあなたの歯ブラシを操作不能にしたとしても(実際にそういうことがあった)、まあたいした問題ではないだろう。だが糖尿病患者のモニターやペースメーカーやホームセキュリティの所有権構造に驚きの変化がもたらされたら、ことは命に関わる。

薪の束という発想は、所有権設計の技術を構成する重要な一要素である。購入ボタンは、束の設計を大幅に変更した一つの例に過ぎない。私たちがオンラインで関わり合う企業は、所有権エンジニアリングの達人であることを忘れてはいけない。だから彼らは利益を上げられるのだ。政府はそれを容認している。

たぶん消費者である私たちはアップルの有名な古いスローガン“Think Different(ものの見方を変えろ)”に適応する必要があるのだろう。

「デジタル所有」の代償

まず私たちは、自分が所有しているつもりのものと実際に所有しているものとの差がどんどん広がっていることを認識しなければならない。両者の差の拡大は、けっして偶然ではない。デジタル所有権の巧妙なごまかしの結果なのだ。私たちは、実際以上に多く所有していると思わされている。オンラインで買うときに「私の!」と感じる原始的な感覚も所有の範囲も、実態を伴っていない。

この新しい世界はどのような代償を伴ったのだろうか。

一つは、オンラインでの所有権の集中化である。かつて物理的な所有権は分散していた。本であれば、多くの人が有形の紙の本を所有していた。同じ本が多数存在するので、記憶は保存され拡散される。

翻って今日では、本も映画も姿を消そうとしている。薪の束を所有しているのは一握りの企業だけで、それ以外の人は薪を一本持っているだけだ。ある日クラウドのどこかでボタンが押されたら、薪すなわち本の複製は一斉に消滅しかねない。