ディズニーが「権利主張」の態度を軟化させた理由

いまではディズニーは、筋金入りのファンが運営する無数の小さなオンラインストアが、ディズニーのキャラクターをつけたTシャツやボタン、ピンバッジ、ワッペン、アクセサリーその他諸々のアイテムを販売することを非公式に容認している。これらの店は、ディズニーにライセンス料を1セントたりとも払っていない。

ディズニーはなぜ偽物を容認する戦術に転換したのか。ファンが無許可で作る25ドルのTシャツを着た人たちがディズニーランドへ繰り出し、高い入園料を払い、一日中そこで過ごして大散財してくれると気づいたからだ。

マイケル・ヘラー、ジェームズ・ザルツマン『Mine! 私たちを支配する「所有」のルール』(早川書房)
マイケル・ヘラー、ジェームズ・ザルツマン『Mine! 私たちを支配する「所有」のルール』(早川書房)

もう一つの理由は、市場調査の結果、こうした偽物を売る店にはそれとして価値があると判明したからでもある。彼らは公式のディズニーアイテムに新しいインスピレーションを与えてくれる。2016年にオンラインストア、ビビディ・ボビディ・ブルック(Bibbidi Bobbidi Brooke)はスパンコールをちりばめたピンクゴールドのミッキー耳カチューシャを大ヒットさせる。これは正規販売店にはない商品だった。

ディズニーはこの商品をコピーし、オフィシャルストアですぐさま売り切れになった。BBブルックは鷹揚に「新商品の登場はいつだってうれしいもの」と投稿した。BBブルックのファンは歓喜して「オリジナルはBBブルックよ!!!」と返信する。こうしてみんながハッピーになった。

「ファンを訴えるのは愚かな行為」

「誰にでも大儲けをすることを容認するとは思えないが、ファンとの関わりが重要な役割を果たすことはディズニーも理解し始めたようだ」と知的財産権を専門とするある教授はディズニーの新しいアプローチについて語っている。「レコード業界が気づき始めたとおり、ファンを訴えるのは愚かな行為だ。ファンだからこそ盗むのだから」

現在の経済ではさまざまな領域で「他人の蒔いた種を収穫する」ことが現実のルールになっているが、それでもイノベーションは次々に生まれている。誰も所有権を主張できないケースでさえ、人々は創造的労働にやり甲斐を認めているのだ。コピーも共有も盗みの容認も、成長の原動力となりうる。

問うべきは、「著作権の保護をファッションにも与えるべきか?」ではない。ファッション業界を指針とするなら、「知的労働に対する法的所有権を排除できる領域はほかにないか?」を問うべきである。

【関連記事】
【第1回】「リクライニングを倒していいですか」を後列の人は拒否できるのか…航空会社が結論を先送りにしているワケ
「NHK離れ」が止まらないのに…組織存続のために「スマホ持っているだけで受信料」を狙うNHKの厚顔無恥
「入院不要なら7700円」に怒る患者は悪くない…三重・松阪の「救急車有料化」を現役医師が問題視する理由
ロレックスもレアカードも"投機の道具"になっている…「トケマッチ事件」の被害者に現代人が同情できない理由
「今から行くから待ってろコラ!」電話のあと本当に来社したモンスタークレーマーを撃退した意外なひと言