そして第四の手段はパイ自体を大きくすることだ。知識の無料公開には、パイを大きくする点で商業的に意味がある。IBMはリナックスから多大な価値を得ており、数百万ドルに相当する自社のエンジニアの時間を保守や更新によろこんで提供している。
リナックスが改善されるほど、IBMは関連サービスからより多くの利益を上げることができる。リナックスは競争相手にも恩恵をもたらすが、それでもIBMが多大な貢献をするのはこのためだ。かくしてリナックスは改善を重ねているが、誰も所有していない。
先行者利得、不名誉、ソーシャルメディア、パイを大きくするという四つの手段があれば、すべての産業は繁栄できるはずだ。もちろんどれも完璧ではない。不名誉が行き過ぎれば暴力的になりかねないし、ソーシャルメディアは暴徒の正義に陥りがちだ。労働に報いる手段として、どれにもそれぞれにメリット、デメリットがある。だがそれを言うなら、法律も同じだ。
法律に頼りすぎるのは非生産的
コピーに対抗しようと作り手が法律に頼る場合、法律の施行は往々にして非生産的になる。レコード業界はここ何年も大学生をたびたび訴えてきた。その結果、不正ダウンロードこそ減ったものの、このような訴訟沙汰は当然ながら恨みや反感を買う。顧客を訴えるのはよいマーケティング戦略とは言い難い。
例外は、世界的に人気のヘビメタバンド、メタリカ(Metallica)が音楽ファイル共有サイトのナップスター(Napster)を訴えたときだけだ。リリース前の楽曲がナップスターからリークされたというのが訴えの内容で、「あいつらが俺たちをぶっ潰しにきたから、俺たちもあいつらをぶっ潰そうってなった」とバンドメンバーがのちに語っている。ファンの多くは溜飲を下げた。
知的財産を要塞化してきた産業でさえ、盗みを容認するほうが利益になると判断することも少なくない。すでに述べたように、ケーブルテレビ局HBOは大勢の人が不正にパスワードを共有して番組をただで視聴していることを知っていながら、見て見ぬふりをしてきた。見たい番組を思う存分見てもらえば、若い世代が「病みつき」になると期待できるからだ。経営者自身がそう述べている。
彼ら違法視聴者が大人になって収入を得るようになった暁にはきっと正規のアカウントを作って料金を払ってくれるだろう、とHBOは望みをかけている。
盗みを容認するのは長期投資だ。その一方で短期的には、不正に見た人たちも番組について貴重なバズを起こしてくれる。