高級腕時計のシェアリングサービス「トケマッチ」をめぐる事件に注目が集まっている。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「事件の被害者は気の毒だが、完全には同情できない。時計に対する愛や衝動ではなく、『不労収入が手に入るのではないか』という下心が見えるからだ」という――。
ベルリンのディーラーのショーケースに展示されているロレックスの時計のコレクション
写真=iStock.com/pelucco
※写真はイメージです

2年間で急成長、政府からも「お墨付き」

高級腕時計をシェアするとレンタル料の一部が手に入る「シェアリングサービス」を展開していた「トケマッチ」をめぐり、運営会社の元社長が業務上横領で指名手配される事件へと発展した。

トケマッチは、高級腕時計の持ち主が、運営会社を通じて別の人に貸し出し、そのレンタル料の一部を得られる仕組みだ。

運営会社ネオリバースのウェブサイトによれば、いまから4年近く前の2020年7月に会社を設立し、その約半年後の2021年1月にこのサービスを始めている。半年で50本に過ぎなかった預託本数は、2023年3月には1000本に達したという。2年余りで20倍に膨れ上がったのだから、それだけ広く信頼されていたと推測できよう。

しかも、その3カ月後の2023年6月には「シェアリングエコノミー認証マーク」を取得している。これは、一般社団法人シェアリングエコノミー協会が認証しているだけではない。内閣官房IT総合戦略室、つまり、日本政府がつくった「遵守すべき事項」を基にしている。法律による規制(法規制)とも、業界団体による協定(自主規制)とも異なる「中間的な政策手段」である。

政府と業界団体、その両方からのお墨付きをもらっていたのである。

会社代表はドバイに出国、国際指名手配へ

急成長しただけではなく、シェアリングエコノミーという新しい経済活動の点でも権威づけられた。商売として儲かるだけではなく、社会に貢献しているかのような雰囲気を醸し出してきた。

しかし、今年1月31日、運営会社が突然、解散を発表し、預けられていた多くの腕時計は返却されなくなった。警察に受理された被害届は、3月8日時点で、全国33都道府県、173人にのぼる

警視庁は、このうち、東京都内に住む男性から預かった高級腕時計ロレックスを、今年1月ごろ、無断で売りさばいた疑いで、会社の代表を務めていた福原敬済容疑者(42)について、業務上横領の疑いで逮捕状を取った。福原容疑者は、元社員の永田大輔容疑者(38)とともに、1月31日当日に中東のドバイにむけて出国したとみられていて、今後、国際手配する方針だという。

マスメディアは、福原容疑者らの計画性を疑い、トケマッチを始めた時から高級腕時計のレンタルを仲介するのではなく、売却するつもりだったのではないか、と報じているが、ここでの関心は別のところにある。

マスメディアは、被害者に同情しているのか、という点である。