「世の中になかったものを最初に生み出した」利益

第一は先行者利得だ。これは創造的労働に対する有効な報いであり、しかも正規の所有権に伴う欠点がない。

たとえばアメリカンフットボールの監督は毎シーズンのように新しい戦術(たとえばピストル・フォーメーション)を考案する。最初にそれを使えば、相手は予期していないので、敵が対策を考えつくまで勝利を収めることができる。新戦術を編み出した監督は高い評価を得て高報酬で引き抜かれたり、高報酬でチームから慰留されたりする可能性もある。

そもそもこれまで世になかったものを自分が最初に生み出したというだけで、ほかに何の報いがなくても、作り手は十分に報われたと感じるものだ。マイケル・ブルームバーグの成功と巨万の富が、証券取引で数分の一秒先んじるための情報端末ライセンス事業のおかげであることを忘れてはいけない。

第二は不名誉である。コメディアンは著作権で保護されないという点でファッションデザイナーや球団監督と同様の悩みを抱えている。そのうえスタン・ローレルがかつて言ったとおり、「コメディアンはみな互いに盗み合っている」状況だ。

では、ジョークを最初に言ってもすぐ真似されるとなれば、コメディアンはどうやって稼ぎを守ればいいのか。彼らは寄席で真似した芸人をやっつける。

たとえば2007年にロサンゼルス・コメディストアでカルロス・メンシアが演じている最中にコメディアンのジョー・ローガンが舞台に駆け上がり、メンシアを「盗人」だとなじった。狭いコメディ業界では、お金ももちろん大切だが、最大の報いは客の笑いをとることであり、恥をかかされたら干されかねない。不名誉は報復として判決より効果的だ。

もっとも、つねに効果的なわけではない。現に俳優でコメディアンのミルトン・バールは、「下品なギャグのコソ泥」をしてキャリアを築いた。それでもコメディアンは他人のネタを借用する前に、評判に傷がつく恐れがあることをよくよく考えたほうがよい。

SNSがクリエイターを守る

第三はソーシャルメディアである。SNSは不完全ながらも作り手に報いる有効なメカニズムだ。キャリー・アン・ロバーツがデザインを盗まれたと投稿すると、彼女のファンがさっそく行動を起こす。オールドネイビーのウェブサイトで販売されているコピー品のTシャツにさんざんなレビューを次々に投稿したのだ。

批判にさらされ名誉を傷つけられたオールドネイビーは件のTシャツの販売を中止し、追加発注をキャンセルした。ロバーツはコピーされた時は激怒したが、巨人ゴリアテにSNSのダヴィデが果敢に立ち向かった結果、彼女の評価は上がり、メール・サールは人気ブランドになっている。