クジラはある程度捕獲しても問題ない

――2700トンものクジラ肉を輸入すると、せっかく持ち直した単価が下がってしまうのではないですか?

共同船舶1社という立場で見れば、われわれが生産した1600トンを高値で売れば、経営が楽なことは事実です。でも、調査捕鯨時代の5500トンの供給量を維持しないと加工業者や鯨料理屋さんなどの鯨肉業界が成り立たない。捕鯨産業を長期的に守るには5500トンの市場を維持しなければ、と輸入に踏み切ったのです。

――ただ1億円から2億円の黒字が出たとしても、50億円から70億円もする新母船建造は厳しい気がします。

いまわれわれはIWC(国際捕鯨委員会)で認められた改訂管理方式という算出方法に基づき、獲るクジラの数が決められます。

改訂管理方式は、クジラの保護に重点を置いた管理方法と言われています。いまは改訂管理方式に従って、1年間で187頭のニタリクジラと25頭のイワシクジラを捕獲しています。

クジラは外敵がいないだけでなく、繁殖力も強い動物です。仮に100年間、毎年212頭を獲り続けたとしても、もともといるクジラの数は減ることはありません。

商業捕鯨になってからは、捕獲した212頭から毎年1500トンから1600トンの鯨肉が生産されます。近い将来、イワシクジラとニタリクジラの2種に新たな種類のクジラを加え、2220トンにできないか検討している最中です。

その上で、キロ単価1300円にできれば、約28億万円の売り上げが見込めます。コストをギリギリに削ると、年間約20億円で操業が可能です。そうすれば、毎年8億6000万円の黒字が出る計算になります。約5億円を新母船建造費の返済に充てて、十数年で完済する計画です。

関鯨丸の新しい機能について説明する所社長
撮影=プレジデントオンライン編集部

関鯨丸は以前の船とは異なり、「電気推進システムを採用。船の上部にはクジラを探すためのドローンが配備され、70トンの大型のクジラも船内に引き揚げることができる」(所社長)という。乗組員の定員は100名で、個室が用意されている。

関鯨丸の完成が意味すること

――共同船舶という捕鯨会社の経営を立て直せたからこそ、関鯨丸建造が可能になったわけですね。

73年ぶりに造られた捕鯨母船です。はじめての航海では不具合やトラブルが続くでしょう。先日も、試験航海の前にプロペラが動かないという報告がきて、凍り付きました。船員たちが頑張ってメンテナンスしてくれたおかげで、事なきをえましたが……。

不安はもちろんあります。でもそれ以上に感慨深い。関鯨丸の建造は、社長に就任した私の使命だと考えていました。

32年続いた調査捕鯨が終わり、捕鯨業界にたずさわってきた人たちは不安を抱きました。長年、クジラ肉をあつかってきた料理屋さんや加工屋さん、市場で働く人たち、そして共同船舶の社員やその家族……。だからこそ、新しい母船が必要だと感じていたんです。

船の寿命は、約30年。「関鯨丸」の完成は、われわれはこれから30年、クジラ肉を供給するぞ、という意思表明でもあるんです。(後編に続く)

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