昨年11月、イワシクジラの「尾の身の生肉」が下関市場で1キロ80万円という史上最高値で競り落とされた。捕鯨会社の共同船舶の所英樹社長は「クジラ肉の『かたい』『くさい』というイメージは、調理方法を間違えているから。適切に調理すれば、中トロと牛肉を足して割ったような味と食感になる」という――。(後編/全2回)(聞き手・構成=ノンフィクションライター・山川徹)
共同船舶の所社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
共同船舶の所社長

「こんなにもうまかったのか」と驚いたクジラのある部位

前編から続く)

――2019年に商業捕鯨が再開しました。しかし商業捕鯨が成り立つほどクジラ肉に需要があるのでしょうか。

以前、消費者がクジラ肉にどんなイメージを持っているか調査を行いました。

〈かたい〉〈くさい〉〈調理の仕方が分からない〉〈クジラを食べる必要がない〉などの回答が寄せられました。しかもクジラ肉を食べた経験がない若い世代も増えています。いや、食べた経験がないどころか「クジラって食べていいの?」という意識の人も少なくない。

私が社長に就任する2020年までは、クジラ肉は、高齢者がノスタルジーで買ってくれる商品と受け止められていました。

そうしたイメージを払拭するために、いま2つのことに取り組んでいます。ひとつは、クジラの本当の味を知っていただくこと。もうひとつは、クジラ肉の成分を広めることです。

私自身、クジラってこんなにうまかったのか、と感動した経験があります。10年ほど前、私は経営コンサルタントとして、日本鯨類研究所が主導するKKP(くじら改善プロジェクト)にたずさわっていました。捕鯨のコスト削減とクジラ肉の品質向上を目指したKKPの一環で、捕鯨国のアイスランドを視察したんです。

捕獲したばかりのナガスクジラの高級部位である「尾の身」を切り取って冷蔵庫で一晩寝かし、熟成させた。

翌日、刺し身でごちそうになりました。肉が柔らかい上に、口のなかに脂がとろけた。その脂の粒子が細かくて上品なんです。飛び上がるほどうまかった。強いて言えばマグロの中トロと牛肉を足して2で割った味と食感と言えばいいか……。その肉が、近くに湧き出す温泉水で割ったハバナクラブによくあって、酒が進みました。