基地式捕鯨では成り立たない

――沖合から撤退した場合、どうなったのですか?

アイスランドと同じ「基地式捕鯨」にする計画だったそうです。沿岸に捕鯨基地を建設し、そこから出港した捕鯨船がクジラを捕獲して、基地に水揚げするという形の捕鯨です。

しかしわれわれが主力で捕獲しているニタリクジラは水温20度前後の比較的温かい海域に生息しています。もしも基地式にした場合、捕獲したクジラが帰港するまでに傷んでしまう恐れがあった。アイスランドの基地式捕鯨は、寒冷な海域だから可能なんです。

南の海を泳ぐクジラ
写真=iStock.com/MarineMan
※写真はイメージです

私は沖合での母船式捕鯨立て直しのために、社長に就任しました。なんとしても、母船式捕鯨で収益を上げたかった。そのためには、新母船建造が絶対条件でした。

社長就任直後から、私は新母船について改めて調べ直しました。従来のディーゼル船に比べて、電気推進式システムなどにしてコストカットすれば、50億円から70億円で建造可能だと分かった。経営を立て直して黒字化できれば、自前で建造できる額だったのです。

会社を立て直すためにしたこと

――とはいえ、商業捕鯨初年度は7億円以上の赤字ですよね。クジラは厳密に捕獲枠が決まっています。たくさん獲って生産量を増やすわけにはいきません。黒字化は容易でないように感じます。

調査捕鯨時代の2016年は、クジラ肉の供給量が5500トン、当時のキロ単価1200円だったので、66億円の市場が確かにありました。

しかし商業捕鯨になった2020年は、共同船舶と沿岸の小型鯨類の事業者の供給量に、ノルウェーからの輸入などを加えても、4年前の半分以下の2500トン。キロ単価1000円としても、卸売市場は25億円に過ぎません。加えて商業捕鯨になり、売り上げに固執して鯨肉を安売りした結果、値崩れしていました。捕鯨を続けるには、クジラ肉に付加価値をつけて、単価を上げていくしかなかった。

では、単価を上げるために何をしたのか。

これは難しい話ではありません。私たちが一貫して取り組んでいることはたったの3つです。

1つ目はプロモーションをして値段を上げる。

2つ目が生産ラインを見直し、コストダウンをする。

3つ目に品質を上げる。

4年目で黒字化に成功

プロモーションに関しては、コロナ禍ではあったのですが、豊洲市場や仙台市場、下関市場でクジラ肉の上場や、ウェブ上のイベントを行いました。

同時に、一切、値下げをせずにクジラ肉が持つ価値を販売先に理解してもらえるよう営業の方針を変えました。デパ地下や通販事業者など販売先の開拓も大きかった。

その影響で、2020年4月から6月に711円だったキロ単価が、2020年末には957円に回復しました。さらに1年後の2021年末には1127円に持ち直しました。

また2023年11月、山口県の下関市場に上場したイワシクジラの生肉は史上最高値であるキロ80万円を記録し、たくさんのメディアが取り上げてくれて話題になった。このペースで今年中にキロ1300円まで値段を上げたい。

値上げにより、商業捕鯨初年に7億円を超す赤字を、翌年は2700万円に圧縮しました。そして2023年3月に2億円の黒字化に成功しました。今年はアイスランドから2700トンのクジラ肉を輸入した影響で、黒字は1億円ほどの見込みです。