無意識の中で行われている膨大な仕事
もう一つ、分散系は感情を生み出す時にも重要な働きをしていると考えられている。さまざまな知覚情報を、ある感情として大まかに捉える時に分散系が必要になるのである。情動を感情として認識するためには、大脳皮質に蓄えられた多くの記憶を参照する必要があるからだ。
そして、これは上記の想像力とも関係することであるが、「心の理論」あるいは「社会脳」と呼ばれるような、他者の気持ちや考えを推測する時にも分散系が活性化することが示されている。
オックスフォード大学のロジャー・マースらは、社会的な認知・行動を行う際に活性化する脳部位が、上記の分散系の脳領域とほとんど一致することを見出した。また症候学的にも、帯状回の病変で、人の表情からその感情を読み取ることができなくなることが知られている。
この分散系は、私たちが意識していなくても、無意識の中で膨大な仕事をしている。脳は重量からすれば体の2%程度を占めるにすぎないが、エネルギーは全身の20%を消費している。そして、意外なことに、何か目的を持った活動をしても、エネルギー消費の上昇はわずか5%以下なのである。
つまり、脳は意識的には何もしていない時でもかなりのエネルギーを使っており、その量は何か仕事に集中している時と同じくらい大きいということだ。特に、睡眠時間の約20%を占めるノンレム睡眠と言われる時間には、強く活性化していることが知られており、我々の脳機能を支える重要な働きをしていると考えられる。
この意識されていない脳の働きこそ、脳を支える最も本質的な部分なのかもしれない。