なぜいいアイデアは入浴中や散歩中といった「ぼーっとしている時」に浮かびやすいのか。千葉大学脳神経外科学元教授の岩立康男さんは「脳には集中系と分散系という2つのシステムがある。集中から解放されて一息ついた時こそ、分散系が働いて、直観が働く」という――。
※本稿は、岩立康男『直観脳』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
「集中」には新しい発想は必要ない
「集中力が直観を妨げる」と言うと、違和感を覚える人も多いのではないだろうか。
一般的には、「集中することは良いこと」とされてきた。「あの人は集中力がある」と言えば、普通は誉め言葉である。「集中力がある」というのは、ある一定の時間、少なくとも数時間は同じことに取り組んで仕事をしている状態を指すのだろう。わき目もふらず課題解決、目標達成に取り組んでいくことは、時に必要であるし、悪いことではない。
ここでの“仕事”とは、データ整理であったり、何かを作ったり、あるいは計算をしたりといったことだ。つまり、やるべきことが決まっていて、それをこなしていく作業である。そこでは新しい発想などはあまり求められない。むしろ、余分なことは考えずに業務をこなしなさい、そのために集中しなさい、といった意味合いが強いのではないだろうか。
およそ世の中の仕事と呼ばれるものは集中力を必要とするものばかりであり、その中で技術を磨いていくことになる。したがって、集中力が重要であることは論を待たない。
私にとって「集中」の最たるものは「手術」である。特に脳の手術は命に直結する部位の操作となり、術者は極度の集中と緊張状態にある。目の前にある術野が、病変のどの部位にあたるのか、そこに危険な血管や重要な機能部位がないか、常に自分の空間認知能と術前のシミュレーションを頼りに絞り込んでいく。そのような場面で、新しい研究の着想が浮かんだり、昨日診た複雑な症状を呈する患者さんの診断が浮かんだり、といった経験は当然ながらないわけだ。