大脳の広い領域を均等に活性化する分散系
なにか集中して課題をこなしている時に、常に抑制されている部位が分散系であるということは、集中系と分散系はお互いに抑制し合う関係にあることがわかる。片方が働いている時に、必ずもう片方が休んでいる。これはつまり、両者は表裏一体であり、常に緊密な連携を取りながら働いているということだ。
分散系というのは、作業に集中して脳の一部だけ使っている状態ではなく、大脳の広い領域を均等に活性化するためのシステムだ。作業に集中している時には必ず抑制されているため、「脳を広く使おうとする時には、何かの作業に集中していてはいけない」ということになる。
分散系は、ぼーっと景色を眺めている時や、散歩、入浴中、睡眠(レム睡眠という夢を見ている睡眠)などにおいて活性化する。ぼーっとしている時に活性化しているとは言っても、その時いったい分散系は何をしているのだろうか? 分散系の働きについてはまだ研究途上であるが、無意識の中にその本質があると考えられている。
思わぬ記憶どうしが結びついて新たな発想が生まれる
そして、現在多くの研究者の見解が一致している分散系の重要な働きは、「記憶の統合と整理」である。夢を見ている時に、過去の出来事が何の脈絡もなく現れたという経験をしたことはないだろうか? これは、分散系が大脳に広く蓄積された記憶にアクセスしていることを示している。分散系は、今自分が経験していることを、過去に築き上げた自分の記憶・歴史の中に矛盾なく組み込んで、記憶を編集していくうえで重要な役割を果たしているのだ。
そして分散系が働いている時は、脳の広い部位が活性化することによって、思わぬ記憶どうしが結びついて、新たなものの見方や新たな発想が生まれてくる可能性が高くなる。これこそが「考える」ということであり、その過程は無意識の中で行われ、多くの試行錯誤を経て「直観」として姿を現すことになる。その働き方は決して効率的にプログラムされているわけではないので、実は多くの直観は時間をかけて生み出されていると考えられる。
分散系の働きは「創造力」を生み出すためにも必要だ。実際に見たり聞いたりしてはいないものについて考えるためには意味記憶のネットワークが必要であり、どの記憶とどの記憶を結びつけるかによって、想像の世界は、ほぼ無限と言ってもいいくらいの多様性が生まれてくる。