アマゾンを恐れ、アマゾンから学んだ
リテールメディアにとって、ECサイトや店舗のデジタルサイネージが必要条件だとすれば、顧客とスマホでつながること、カスタマーセントリックであることは十分条件といえる。
ウォルマートのダグ・マクミロンCEOは、アマゾンに関する書籍を読み漁り、徹底的に研究したことで知られる。彼は取締役会でもアマゾンに極めて強い危機感を示していたそうだ。
彼がアマゾンから強く学んだのは、カスタマーセントリックの重視だろう。アマゾンのサイトでは、ユーザーの購買や閲覧からおすすめ商品が出てくる。他のECサイトに比べ、スポンサー広告を見せられた違和感は小さい。先ほど紹介したBtoBのクライアントより、BtoCの顧客を優先するからだ。
ウォルマートの店舗やサイトでも同様に、デジタルネイティブ企業並みにカスタマーセントリックが重視され、カスタマーエクスペリエンスは高い。
CEO自ら危機感を覚えてアマゾンから本気で学び、自分たちはテクノロジー企業だと宣言して、社員たちに企業文化の刷新を求めた。社員教育やDXにも積極的に取り組み、全社を挙げてカスタマーセントリックをめざした点は大きい。
日本のリテーラーが取り組むべき課題
日本のリテールメディアでは、2020年に設立された伊藤忠商事・ファミリーマート・NTTドコモ・サイバーエージェントによる合弁企業の「データ・ワン」が一歩先んじているように見える。また、2022年にはセブン‐イレブン・ジャパンが「リテールメディア推進部」という部署を新設し、動きを本格化させている。そして、2月に発表された三菱商事・KDDI・ローソンによる資本業務提携でも、リテールメディア事業の強化が課題になるだろう。
ただし、日本のリテールメディア事業は本格的な展開にはなっていない。リテールメディアの本質はBtoBではなくBtoCにある。これまでのマス広告と同じように出稿主を募るようでは、成長は望めない。重要なことは、日本のリテーラーが顧客と本格的にスマホでつながり、カスタマーセントリックを実現することにある。
もし日本で本格的なリテールメディアを立ち上げることができれば、そのリテーラーは爆発的な成長を遂げることになるだろう。