アマゾンを恐れ、アマゾンから学んだ

リテールメディアにとって、ECサイトや店舗のデジタルサイネージが必要条件だとすれば、顧客とスマホでつながること、カスタマーセントリックであることは十分条件といえる。

ウォルマートのダグ・マクミロンCEOは、アマゾンに関する書籍を読み漁り、徹底的に研究したことで知られる。彼は取締役会でもアマゾンに極めて強い危機感を示していたそうだ。

小売り世界最大手の米ウォルマート・ストアーズのダグ・マクミロン最高経営責任者(CEO)
写真=時事通信フォト
小売り世界最大手の米ウォルマート・ストアーズのダグ・マクミロン最高経営責任者(CEO)(=2014年6月6日、アメリカ・アーカンソー州ファイエットビル)

彼がアマゾンから強く学んだのは、カスタマーセントリックの重視だろう。アマゾンのサイトでは、ユーザーの購買や閲覧からおすすめ商品が出てくる。他のECサイトに比べ、スポンサー広告を見せられた違和感は小さい。先ほど紹介したBtoBのクライアントより、BtoCの顧客を優先するからだ。

ウォルマートの店舗やサイトでも同様に、デジタルネイティブ企業並みにカスタマーセントリックが重視され、カスタマーエクスペリエンスは高い。

CEO自ら危機感を覚えてアマゾンから本気で学び、自分たちはテクノロジー企業だと宣言して、社員たちに企業文化の刷新を求めた。社員教育やDXにも積極的に取り組み、全社を挙げてカスタマーセントリックをめざした点は大きい。

日本のリテーラーが取り組むべき課題

日本のリテールメディアでは、2020年に設立された伊藤忠商事・ファミリーマート・NTTドコモ・サイバーエージェントによる合弁企業の「データ・ワン」が一歩先んじているように見える。また、2022年にはセブン‐イレブン・ジャパンが「リテールメディア推進部」という部署を新設し、動きを本格化させている。そして、2月に発表された三菱商事・KDDI・ローソンによる資本業務提携でも、リテールメディア事業の強化が課題になるだろう。

ただし、日本のリテールメディア事業は本格的な展開にはなっていない。リテールメディアの本質はBtoBではなくBtoCにある。これまでのマス広告と同じように出稿主を募るようでは、成長は望めない。重要なことは、日本のリテーラーが顧客と本格的にスマホでつながり、カスタマーセントリックを実現することにある。

もし日本で本格的なリテールメディアを立ち上げることができれば、そのリテーラーは爆発的な成長を遂げることになるだろう。

(構成=伊田欣司)
【関連記事】
これだけは絶対にやってはいけない…稲盛和夫氏が断言した「成功しない人」に共通するたった1つのこと【2023上半期BEST5】
ユニクロとは「真逆の戦略」で大成功…機能性を売りにしない女性アパレル「ハニーズ」が絶好調な安さ以外の理由
「アマゾンへの対抗ではない」から続いている…ヨドバシカメラが100円の電球を送料無料で即日配達する理由
「ローソンと合併すれば強大な企業連合が誕生する」楽天が赤字決算を発表したら株価が急上昇した"意外な背景"
地方から百貨店も総合スーパーも消えていく…それでもイオンが"時代遅れのGMS事業"を続ける意外な理由