小売発の新たな広告サービス「リテールメディア」の市場が急速に拡大している。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「米ウォルマートのリテールメディア事業は5000億円以上に達している。これは日本の広告業界では電通、博報堂に次ぐ規模だ。そうした成功の背景には、スマホ対応と顧客中心主義がある」という――。
メリーランド州にあるウォルマートの店舗
写真=iStock.com/Alexander Farnsworth
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ウォルマートでは5100億円の事業に成長

リテールメディアは、小売(リテール)企業が保有する顧客データを活用して、自社のスマホアプリや店舗のデジタルサイネージなどに広告を配信する仕組みだ。英広告会社WPP傘下のグループエムのリポートでは、2028年にテレビ広告市場をリテールメディアが超えると予測されている。

日本ではまだあまり浸透していないが、アメリカでは大手小売のほとんどがリテールメディア事業に取り組んでいる。なかでも売上で群を抜いているのがアマゾンとウォルマートだ。特にウォルマートはこの3年で急成長し、現在は約5100億円に達している。日本の広告業界でいえば、電通、博報堂に次ぐトップ3に入る売上規模だ。

アマゾンとウォルマートの広告事業が堅調に伸びてきた理由は、一言でいえば「カスタマーセントリック(顧客中心主義)」で取り組み、「カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)」が高いことにある。アマゾンには、自社の取引相手であるBtoBの事業者とBtoCの消費者で利害が対立したときは、BtoCの消費者を優先するという社内ルールがある。リテールメディア事業でいえば、クライアント(広告主)がいくら希望しても、消費者に受け入れてもらえない広告は出さないということだ。

2021年にスタートした「Walmart Connect」

現在のアメリカは「リテールメディア2.0」から「リテールメディア3.0」へとアップデートしている段階だといわれる。オンライン検索広告が主だったのが1.0の時代。2.0に入ると、ECサイトやスマホのアプリに動画広告が流れ、店舗でデジタルサイネージが展開されるなど幅広いフォーマットが活用されるようになった。3.0では、顧客が自社と取引を開始してから終わるまでにもたらすライフタイムバリュー(LTV=顧客生涯価値)の最大化を目指すことになる。

このうち、本稿ではウォルマートの取り組みを紹介したい。同社は、2021年にデジタル広告を扱う部門を「Walmart Connect」として再編し、リテールメディアの取り組みを強化した。Walmart Connectのプラットフォームは、今後の成長が期待される日本のリテールメディアが進むべき方向を示しているはずだ。