「譲っていいかどうか」のボーダーライン

しかし、社長の常人離れした価値へのこだわりや執着心があったからこそ、他と異なる価値を持つプロダクトやサービス、店舗などが提供でき、お客様に支持されてきたのも事実です。

そうしたこだわりや執着心を捨ててしまえば、会社の価値の源泉がなくなってしまいます。全体の雰囲気も緩むでしょう。

そう考えると、大切なのは、会社として「絶対譲ってはいけないこと」と「譲ってもいいこと」をはっきりさせることです。方法論のレベルではなく、本質的な考え方のレベルで具体的に落とし込むのです。

アパレルショップの服のたたみ方を例に挙げると、「縦に折って横に折って斜めに折る……」といったルールを守らせるのではなく、「こういうたたみ方をするのは、お客様が手に取ったときに扱いやすいから」といった本質的な考え方を共有するのです。接客や営業、顧客に向き合う姿勢などすべて同じです。

それが社内に浸透すれば、メンバーは、単にマニュアル通りにやろうとするのではなく、「こういうふうにたたむと、もっと良いんじゃないか」という会話を交わすようになります。

そうやって考え方を浸透させても、社長は「なんだ、このたたみ方は!」と箸の上げ下ろしまで指摘しがちですが、メンバーは考え方がわかっているので、「なぜこのたたみ方だと社長は怒ったか」を深く理解できるわけです。

もし、社長が「絶対譲ってはいけないこと」と「譲ってもいいこと」を仕分けることができなければ、社長が信頼を寄せる経営陣の誰かに差配してもらうと良いでしょう。社長一人がすべてを抱える必要はありません。

悪い情報が上がってこないのは社長のせい

組織が崩壊する前兆として見過ごしてはいけないのが、「社長に悪い情報が上がってこなくなること」です。

「バッドニュース・ファースト」と言われるように、悪い情報ほど、素早く報告してもらうに越したことはありません。経営者として早期に手が打てるからです。

最初はそれほど問題ではなかったのに、時間が経つうちに問題が大きくなり、会社に多額の損害をもたらすことはよくあります。

ある企業の例です。CFO主導で資金調達を進めていました。財務に精通していなかった社長は、着実に資金を調達している様子を見て、そのCFOを評価していました。