優秀な人材がすぐにいなくなってしまう理由

だから、優秀な人材が入って活躍し、「社長がやるより良いですね」という反応が周囲で起こると、社長は「俺のほうができる」という態度を無意識のうちにとっていたのです。

つまり、組織の課題はうすうす感じていながらも、社長自ら人が定着しない構図をつくり出していたわけです。「社長の孤独」が間接的に悪影響を与えてしまった典型例です。

こうした社長の行動は潜在意識から来るものなので、本人に自覚はありません。でも言葉の端々からにじみ出る「自分のほうができる」という本音は、組織に伝わっていくものです。何年も同じような組織の課題を抱えているのに一向に解消しない場合は、たいがい社長に何らかの問題があると考えて良いでしょう

* 本人が自覚していない潜在意識からの行動を、氷の大半が水中に沈んでいることにたとえて「氷山モデル」と言ったりします。コンプレックスゆえに自分で気づくのは難しいため、我々が社長と対話をしながら自覚を促していくのです。

社長自ら変わろうとする気持ちがあるか

ただ、このようなケースでも、社長だけが完全に悪いかというと、そうとも言えません。

たとえば役員に一部の業務を任せたけれども成果を出せないことが続くと、本当に仕事を任せていいのか不安になってきます。

任せた人が期待以上の成果を出せないだけでなく、その仕事を投げ出して会社を辞めることがあれば、気落ちもしますし、「リスクをとって任せたけど、うーん、これだったら自分が見たほうがいいかな」という考えが生まれます。

従業員や株主への責任、業績が下振れすることへの潜在的な恐れなどもあることを考えると、そうなるのも致し方ないところです。

しかし、そうやっていつまでも仕事を任せないでいると、本当の右腕は育ちません。

任される側のスキルやマインドが障害になっているのであれば、相互理解の場づくりや、お互いの考えの開示が必要です。任せる業務があまりに漠然としているようなら、タスクを細分化してわかりやすくするべきでしょう。

一方で、社長の考え方に問題がある場合は、制度を整えるだけでは改善しません。そのままのワンマンスタイルで続けるか、自分の潜在的な価値観を改めるか、社長自身が本気で自分の心と向き合うことが必要です。

自分を変えるのが難しいのは誰しも同じです。私自身も実感していますが、組織のフェーズが変わってくると、それでも社長自身が変わらなければなりません。そのことは強く意識したほうが良いでしょう。