働き手になる人がそもそもいない
さらに、地方の企業経営者からは、賃金水準の話も頻繁に出てきた。
とある地方の鉄道とバスの運行会社では、2023年の昇給率は4.4%だという。「人にお金をかけないと人手が集まらないからだが、このペースでいくと10年後に年収が1.5倍になる」と幹部社員が苦笑しながら話していた。
同様の話は各所で出ていて、たとえば「製造業の現業スタッフへの派遣単価が、ここ4、5年で20〜30%上がった」といった話や、はたまた、「人件費が安いからと、ある企業が進出してきて大規模な工場をつくったが、人が十分に確保できていないために全面稼働ができていないようだ。稼働率は5、6割と聞いている」といった話も耳にした。
後者の話について、確かに検索するとその工場の求人応募がさまざまな職種でたくさん見つかった。「急募」と書かれた求人では、その県の最低賃金を10〜40%上回る時給でパート・アルバイトが募集されていた。
なお、1カ月後に再び検索しても「急募」と書かれた求人はそのままであった。つまり、働き手になる人がそもそもいないのだ。給与が多少(といってもここ数年で2〜3割上がっているのに、である)上がっても、人手の確保が極めて難しくなっているのだ。
上がる賃金、集まらない働き手
地元だけでは人が確保できず、ほかのエリアで担い手を確保しようとする動きも幅広い企業で広がる。
関西の大手アミューズメント施設では、2023年6、7月にはじめて九州や四国といった地域でのアルバイトスタッフの説明会を実施した。遠方となるので、転居にともなう交通費や引っ越し代、家賃補助などまで出る至れり尽くせりの条件だそうだ(日本経済新聞電子版2023年7月)。会員制量販店のコストコが全国一律で時給1500円で採用していることも知られている。
そうした動きを受けてか、地方都市で時給1000円以上の求人を見かけることも稀ではなくなった。地方の求人を見ていると、切迫した現場を抱えているような企業が思い切った条件を提示しているのが目につくようになっており、人手の取り合いになっていることを痛感する。
地方の中小企業から聞こえてくる「一向に解決しない人材の問題に徒労感を感じている」「悲鳴のような声があがる」「どうすればいいのかわからない」といった声……。
今はまだ、労働供給制約社会の入り口である。人材の問題は、まず企業経営において大きな問題となり、そして生活維持サービスの縮小・消滅というかたちで社会問題となっていく。