配達の仕事で利益を出すのは難しい
地域の戸別配送は、70代、80代の高齢者によって担われているというのだから衝撃だ。元気なシニアが増えているのは間違いないが、転倒するリスクをはじめ現役世代の人材活用とは異なる配慮が必要となる。そう考えたときに、今のサービス水準を今後も持続的に提供できるとは限らない。
物流大手が担っている部分だけでなく、さまざまな人手を介するサービスがいつまで維持できるのかという切迫した状況が、すでに現実のものとなっていると感じさせられる。
「これは結局、高齢化の問題が顕在化している話だと思います。住んでいる人が歳をとっていく。だから配送してほしいものは増えるし、ニーズは高まるけれど、それを担う人がいない。
その現場の大変さを、テクノロジーでどこまで解消できるか。社会に実装されるまでのタイムラグもあるので、私たちの抱える現場に間に合うのかと。
でも、自分でできることから実行するしかないですから、2022年に社員の給料を13%上げました。さらに現場の配達スタッフの給与は33.3%上げました。じつは2000年以降で初の賃上げで、自分があとを継いでからも、もちろんはじめてです。
もはや配達の仕事で利益を出すのは厳しいです。でも、現場の人たちの仕事のおかげで、この会社が地域から必要とされているわけだから手厚く報いたいと決断しました。この効果で配達スタッフが退職しにくくなったような気はしますが……。
でも、新しく入ってくる人は減っているので、人繰りはどんどん厳しくなっています」
担い手が平均年齢「60代半ば」の生活維持サービスが増える
この社長は40代で、その地域の経済界で中核を担っている若手経営者の1人である。
この話ではっきりと認識させられるのは、人手不足が「どんどん厳しくなっている」ということと、それに対して賃上げなど試行錯誤を繰り返してなんとか現状を維持しているという状況だ。
もちろん、紙の印刷物の配送自体が今後、徐々に不要になっていく可能性は高いが、それを必要とする人々が世代交代するまでの期間すら今のやり方で持続可能なのかはわからない。
さらに感じるのが、この会社の状況は地方で先行する一例に過ぎず、今後、平均年齢が「60代半ば」の働き手によって担われる生活維持サービスが、どんどん出現してくることを予告しているように感じる。
そう考えたときに、この社長の話は、私たちが今後直面する社会とその課題を的確に先取りしているのではないだろうか。