「その当時の気持ち」は事後的に変わりうる

なかなか興味深いアイデアにも見える。実際のところ「なんらかのシステムによって双方の性的同意を確認する“証人機関”としての機能をもった宿泊施設」のような事業者はいずれ登場するかもしれない。たとえばコンビニのレジにある酒・たばこ販売時の未成年確認ボタンのように、利用する男女どちらもが「この部屋で性行為をすることに同意しますか?」というボタンを押さなければ部屋が開錠されない仕組みである。ボタンはできれば男女それぞれに用意され、同時に押さなければ無効とされることが望ましい。

しかしながら、そのような「ホテルを擬似的な証人とした性的同意の相互確認システム」だって万全な対策ではない。結局のところそれも「そのときは怖くて同意しないわけにはいかなかった……」と警察に証言されてしまえばひっくり返ってしまう可能性は十二分にあるからだ。ましてやホテルに訪れる前に飲食店で酒を飲んでしまったりすればなおさらだ。飲酒してしまえば「そのときは正確な判断能力がなかった」と評価されやすくなるからだ。

ワイン
写真=iStock.com/Instants
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いずれにしても、性行為に及んだ当時は「同意」だったかもしれないが、あとから何らかの理由によって両者の関係がこじれたり決裂してしまったりしたときには、もっぱら男性側から性的アプローチを受ける側である女性側には「あの時のアレは、よく考えたら合意の上ではなかった。無理矢理同意させられた」と(陥れてやろうとか復讐ふくしゅうしてやろうといった悪意があるわけではなく)本当に「その当時の気持ち」の評価を事後的に変えてしまいうる。

男女間のセックスには「レイプになりうる」性質がある

女性にとってひどく興ざめする事由――たとえばだが、行為に及んだ相手の男性があとから多額の借金を背負った無職だと分かったとか、自分は相手にとって本命の交際相手ではなくじつは浮気されていてn番目のセフレ扱いだったことが発覚したとか――でその前提が失われてしまえば、男女間で行われたセックスは原則として「(遡及的に)レイプになりうる」性質を持っている。

女性側はこの状況について「きちんと同意を取っておけばいい」とか「信頼関係のない相手といきなり性行為をするからそうなる」などと言うが、いま争点になっているのはその「同意」や「信頼関係」が後から覆されてしまうそのリスクにこそある。これを制度的に完全に解決するなら「誠実に信頼関係を積み上げていく」といった抽象的な努力ではなく、婚前交渉の完全違法化(≒婚姻関係の締結をもって唯一絶対の性的同意と見なし、婚姻関係のもとで行われたあらゆる性行為は原則すべて同意のもとに行われたものであると判断する)しかない。