治療の目的は「自信を持ってもらうこと」

【高橋】もし、ライターの黒坂さんが飲んだら、どうなると思いますか?

【黒坂】突然いい文章が書けるようになったり……なんてことは、ないですよね。

【高橋】ないですね。

【黒坂】普通の人が飲んでも、劇的な変化は起きない、と。

【高橋】ただ、何日間かまったく眠らずに、食事もとらずに仕事に没頭できるかもしれません。危険な状態ですね。そもそも普通の人が飲むことは法律で禁止されています。

【黒坂】集中力を上げる薬だから、「超集中状態」になるというわけですね。飲みたがりそうな編集者さんの顔が数人、頭に浮かんできましたが……。でも、眠れないほどの集中が続くのでは、飲み続けるのは無理そうですね。

【高橋】ええ。先ほども申し上げましたが、この薬を飲んでやっと落ち着いて日常が送れる子というのは、もともとドーパミンなどの神経伝達物質のバランスが悪かったということなんです。

【黒坂】ああ、そういうことなのですね。

【高橋】薬物治療の目的は、決して子どもを「静かにさせること」ではないんですよ。日々の困難を緩和し、当たり前の日常生活を送る。そして自分に自信を持ってもらう。それが治療の目的なんです。

認知症とメンタルヘルスの概念で脳を保持する神経学の医師
写真=iStock.com/Iván Jesús Cruz Civieta
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重要なのは「二次障害」を防ぐこと

【黒坂】飲んでいる子どもたちは、違いを感じているものですか?

【高橋】頭がすっきりする、という感じがあるようです。あとは、「できた」という感覚が持てるようになる。最後までできた、字がきれいに書けるようになった、先生の話が頭に入ってくる。「これ大事なお薬だって、わかるよ」って。そんなふうにいいます。本人も自覚しているんですね。

こんなふうに一時期、薬の力を借りることはありますけど、最終的に飲まないですごせるようになる子も、もちろんたくさんいるんです。週末は薬を飲まない、など徐々に薬の力を借りなくても済むようになっていきます。そして、自分の意志で自分をコントロールできるようになったとき、自分に自信を持てたときが薬物治療が終わるときです。発達障害の治療において非常に大切なことがもうひとつあります。二次障害を防ぐことです。

【黒坂】二次障害は、最初のADHDやASD、学習障害などの障害から派生して、うつ病など別の障害が起こることですね。

【高橋】発達障害の子は、どんなに頑張っても試験になると点数がとれない、時間が足りない。頑張っても、その頑張りが成果に結びつかない。学習障害の子がそうですよね。学校でいじめの対象になることもあります。その状態が何年間も続くと、自己肯定感がひどく下がってしまうんです。「どうせ自分は何をやってもダメなんだ」と思うようになります。