世界中で豪邸が建つ

人間という生き物は、生まれながらにして「周りに生き物がたくさんいる状態が大好きだ」というのだ。生き物がたくさんいる環境というのは限られている。だから人間は生き物がたくさんいる環境を好むようになる。それはどんな環境か。ウィルソンは解説する。

「人間は、住む場所を自由に選べるときはいつでも、近くに川や湖、海などが見え、木々が点在する開けた場所に好んで住む」

そしてこうも語る。

「富と権力を持ち、好きなものを誰よりも自由に選びとることができた人々は、湖や川を見わたせる、あるいは海岸に面した高台に多く居を定め、そうした場所には宮殿や別邸、寺院、あるいは共同の別荘が建てられた」(以上、同書175ページ)

A川B川C川沿いの小流域源流の谷は、そして東京のカワセミが愛する都心高級住宅街の緑は、ウィルソンの「バイオフィリア」仮説にぴったり当てはまる場所である。

ウィルソンの「バイオフィリア」仮説を目の当たりにできるコンテンツが、インスタグラムにある。「Mega Mansions」。フォロワー数406.7万人(2023年11月2日時点)の人気投稿だ。

その名の通り、世界中の超お金持ち(有名人も出てくる)の豪邸をひたすら写真と動画で紹介するだけのサイトである。ゴージャスな邸宅や別荘がこれでもかと登場するのだが、そのほとんどが「バイオフィリア仮説」を証明する形態が共通している。

周囲を緑で囲まれた豪邸が、台地のてっぺんに立ち、目の前にプールか池といった水辺が配置され、高低差を設けながら谷を降り、邸宅の足元には、海や川や湖が広がる。

カワセミ(写真=筆者撮影、出所=『カワセミ都市トーキョー』より)
カワセミ(写真=筆者撮影、出所=『カワセミ都市トーキョー』より)

麻布台ヒルズも同じ

小流域源流の地形を再現したもの、それが「メガマンション=大豪邸」というわけだ。お金持ちの邸宅はみな同じ、世界中どこでも変わりはない。なんでもできるお金を持った人間が、みんな同じデザインの「城」を欲する。小流域源流の地形を欲する。

文化的・歴史的背景よりはるかに強い、おそらくは人間の本能なのである。

2023年11月港区に開業した森ビルの複合施設「麻布台ヒルズ」もウィルソンのバイオフィリア仮説通りの建物だ。

武蔵野台地の縁の我善坊がぜんぼう谷の谷頭に立つレジテンス棟Aの入口脇からは湧水のように水が小川となって谷地形に沿って流れ、中央の池へ注ぐ。上階からは東京湾を一望でき、敷地内は広い緑地を備える。