近年、「清流の宝石」と呼ばれるカワセミが東京の都心部で目撃されている。東京工業大学の柳瀬博一教授は「カワセミは高低差がある台地、緑地、湧水、河川がある場所を好む。都心の高級住宅地も同じ自然条件を備えており、カワセミが定住したのだろう」という――。

※本稿は、柳瀬博一『カワセミ都市トーキョー』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

カワセミ(写真=筆者撮影、出所=『カワセミ都市トーキョー』より)
カワセミ(写真=筆者撮影、出所=『カワセミ都市トーキョー』より)

東京の台地エリアにある遊水地

東京の台地エリアには、湧水がつくった谷地形が無数にある。

地下水が豊富な武蔵野台地ならではの特徴だ。川が台地を削り、崖ができる。すると今度はその崖から湧水があふれる。うち規模の大きいものがさらに谷を刻み、新たな小流域を形成し、都市河川の支流となる。人間が武蔵野台地に到達する以前、数万年前の氷期にでき、場所によっては縄文海進で海が侵入し、現在に至る。

東京都内にどのくらい湧水地があるか。

長年東京の湧水の研究に打ち込んできた立正大学の高村弘毅元学長の『東京湧水 せせらぎ散歩』(丸善 2009)によれば、「東京には区部だけでも約280カ所の湧水があり、都内全体では707カ所に及ぶ(島部を含む、03年度東京都環境局による区市町村へのアンケート結果)」という。

同書では、湧水のタイプを3つに分けている。

谷頭こくとうタイプ 台地面上の馬蹄ばてい形や凹型地形など谷地形の谷頭、つまり地形的に水を含む層が露出したところから湧く湧水。地下水が湧出する力で谷頭地形(湧水地形)が形成されるところが多い

崖線がいせんタイプ 川によって侵食された台地の段丘崖や断層面に露出した砂礫層から湧く湧水。
砂礫層の下部は、水を通しにくい粘土層や泥岩になっていることが多い。ときに小滝となる。

凹地滲出おうちしんしゅつタイプ 川床や凹地に地下水・伏流水がポテンシャルにより滲み出してできる湧水。

権力者たちが愛した「小流域源流」

①谷頭タイプの典型が、神田川源流の井の頭池、石神井川源流の三宝寺池、善福寺川源流の善福寺池である。つまり、谷頭タイプの湧水が、川となって台地を削り、徐々に川幅を広げながら、東京湾へと向かって降っていくわけだ。東京の都市河川は谷頭タイプの湧水から生まれている。

都市河川が削った両岸の崖にできるのが②崖線タイプの湧水である。神田川や妙正寺川沿いのおとめ山や関口芭蕉庵などの名前が挙がる。これが、本書で紹介している典型的な小流域源流の湧水である。

さらに、③凹地滲出タイプの湧水は、東京の河川の川底にたくさんあるようだ。洗足池のような凹地の池もまた、このタイプの湧水のひとつとされている。

小流域源流の谷地形を利用してつくられた庭園や緑地や公園は、かつてどんなふうに利用されていたのだろうか。

A川の庭園は江戸時代の有力大名下屋敷の跡地である。B川の公園が整備されたのは明治時代。C川の公園も江戸時代の下屋敷である。

昔の人、しかも権力者たちが、小流域地形を尊び、利用し、自らの屋敷の一部とし、庭園として珍重した。その庭園が今に至るまで残されたわけである。